SSの本棚

書いたSS置き場として使ってみます。

真夜中の火祭(ぼくたちは勉強ができない・文乃&理珠SS)

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「文乃、ありがとうございます夜空のお誘い」
「わ、きれいなケープだね!」
「これですか。同級生の愛佳がつけているのが可愛くて、お店を教えてもらったんです。まなか、愛に佳麗の佳と書くんですけど」
「素敵なお名前だね! うん、夜の観測は冷えるからね、あったかくして損はないよ」
「ちゃんと懐中電灯に赤セロファンも張ってきました。眩しい明かりは、星の光をかき消してしまう、そうですよね」
「うん、星の観測に光は大敵だからね。たとえ遠くの街明かりでもこうがい、光の害になるぐらいだから!」
「――もともと、ケープが好きだったわけではなかったそうです愛佳は。でも、彼氏がプレゼントしてくれたことで、好きになったんだとか」
「へぇ」
「その話を聞いて、愛佳にも尋ねました。欲しくなかった、そこまで自分は嬉しくないことをプレゼントされた時は、どう振舞うのですかって」
「ふぅん――りっちゃんが知りたいのは、前に話した、成幸くんの告白の仕方のこと?」
「そうです。文乃」
「りっちゃんは、相変わらず迷いがないね」
「人の心は、まだ分からないことだらけですので」
「そうだね――冷静に考えたら、りっちゃんの言う通り。天と地に同時に星を輝かせることなんてできない。普段の状態のわたしなら、星の光が消えちゃうようなそれを、喜んだかわからない」
「ええ」
「でもあの瞬間、好きだって思いが伝わり合った瞬間は、このまま永遠に時間が止まってくれたらいいのにって思った」
「……」
「だから、わたしは嬉しかったよ、とっても。人生でいちばん」
「そうですか」
「うん」
「――では文乃、私、いまからもの凄く意地悪なことを言います。そのために文乃は、うるかさんから成幸さんを奪うつもりだったのですか」
「……!」
「怒っても構いません。私、文乃に酷いことを言っています。でも、文乃はあの時、成幸さんとうるかさんがうまくいっていると、思っていたんですよね」
「……うん」
「あの時の私、それを知らず、無責任に煽ってしまいました。あくまであれは関係がイーブンなことが前提です。誰かの幸せを壊してよいとまで、言ったつもりはありません」
「……っ」
「例えるなら、今の文乃に、私が戦いを挑むようなものですよ――なのになぜ、戦おうと?」
「……りっちゃんだから、正直に言う」
「文乃」
「そこまで、考えてなかったよ」
「考えて、なかった?」
「わたし、いったんはうるかちゃんから、逃げた。だから戦う。そう、うるかちゃんにも言ったよ」
「ええ、言いましたね」
「でもそれは、たぶん反射的なもの。正直、言葉とか、後先とか、何も考えられなかった」
「言葉の得意な文乃が、ことばを選べずに」
「うん。りっちゃんに言われて、とにかく、ぶわっと自分の気持ちがあふれて。このままじゃわたし破裂しちゃう。この気持ちを伝えないまま成幸くんとお別れしたら、死んでも死にきれないって、そう思って、走った」
「……文乃」
「たぶん、あの時の成幸くんもおんなじだったんじゃないかな」
「成幸さん、も?」
「思いつく限り、準備できる限りで、星のように輝いて綺麗に見えるものはないか。それだけで頭がいっぱいで、その結果、星の光がどうなるか、わたしがどう受け取るかなんて、考えてなかったんだと思う」
「……それではまるで、ひとりよがりではないですか」
「そうだよ、そう。わたしの告白だって、そう。わたしが一方的に気持ちをぶつけただけ。成幸くんがうるかちゃんとうまくいってたら、ものすごく困らせるだけなのに。成幸くんの舞台装置も、そうなんだよ」
「では、なぜ」
「それもわたしと一緒。お父さんに不審がられても、誰から何を言われようとも、あの瞬間、あの光の中でわたしに想いを伝えなかったら、たぶん一生後悔するから。そう、わたしは思ってる」
「――ごめんなさい。理解が、追いつきません」
「言葉にすると、変だし。伝わらないよね。頭で理解するものじゃなく、感じるものだから」
「感じる、それはなんとなくいま、できているような気がします」
「めちゃくちゃで、自分勝手で、カッコ悪い。でもね、それがわたしたちの恋なの。素敵でとっても大切な、思い出……だからね」
「――文乃?」
「だからね、これでよかったんだ。よかったんだよ。それに対する他人の評価なんて、たとえりっちゃんでも、くそくらえ、だよっ」
「っ!!」
「……ごめん、言いすぎた、ね」
「驚きました。文乃が、そこまで言い切るとは。恋とは、すごい力があるのですね」
「りっちゃん……」
「この話題で、文乃と勝負すべきではなかったですね。参りました」
「おや、なにかに勝つ気だったんだ、りっちゃん」
「文乃、そろそろ本題の方をお願いします」
「珍しい。自分から振ったのにごまかすなんて。逃げちゃダメだよ、りっちゃん?」
「……言質、取りましたよ、文乃?」
「おう、どんとこいでござるよ」
「――では」
「うん――」

「悔しいですっ、それなら私も、文乃に遠慮なんかせず言うべきでしたっ。そうしたら間違いなく、私の成幸さんになっていた自信がありますっ」
「成幸くんはずっとわたしのことばっか考えてたもんっ、絶対わたしを選んだからっ」
「スタートは同じ、自覚したタイミングも似たり寄ったり、ですが私の方が文乃よりたくさん一緒にいて、ドキドキさせてた自信がありますっ!」
「べーだ! おっぱいぐらいで取れるものなら取ってみやがれだよっ!」
「胸の大きさはこの話に関係ありませんっ!」
「あるよデート中のプールで何やられたか忘れてないからねっ!! 持たざる者の気持ち、ちょっとぐらい分かりやがれだよっ!!」
「それなら持ってる方の重くて困る悩みも考えてはどうですかっ! 使う隙ぐらい与えてくださいっ!!」
「絶対あげないっ、おとといきやがれ、だよっ!!」

「……あはは」
「ふふ」
「すっきりした、りっちゃん?」
「文乃こそ」
「うん」
「――ゼミで先生が、言っていましたよ。最近は学問に対し『それは何の役に立つんだ』と常につまらないことを聞かれる」
「うん」
「だが唯一、天文学だけはそれをされない。だから、羨ましいと」
「そうなんだ」
「理屈も理由もない、好きだから、そうする」
「そうだよ、結局それが一番、強いんだよ」
「文乃、人のセリフを取らないでください」
「べーだ」
「まだ、怒っています?」
「ぜんぜん。傷ついたり嫌な気持ち、ぜんぜんないんだ。なんか晴れ晴れした気持ち。お胸の事でりっちゃんの頬っぺたつねったことはあっても、こうやって面と向かって口喧嘩したのは初めてかもね」
「私もです。文乃を、成幸さんと正座させたことはあっても、強い言葉をぶつけたことは、なかった気がします」
「――それは、きっとね。わたしが強くなったと思ったんだよ、りっちゃんが」
「そうですね。文乃も私を、そう言える相手と信じてくれたからですね」

だって。
ですね。

『時には戦いあえる存在をこそ、友達と呼ぶ』んだから。

コウサク(ニセコイ・小咲×五等分の花嫁・三玖SS)

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「……よし」
目の前に聳え立つ、天高く組上がったウェディングケーキの本番品に微笑む私に。
「できた、小咲」
短い言葉とともに、チョコレートで出来たアクセサリーを皿に置く親友。
「三玖ちゃん、ありがとう」
かぶったパティシエ帽が落ちないよう、軽くだけ頭を下げた私に、手袋をはめたまま微笑み返してくれる。
それ以上は喋らないが、出来に満足していることは分かる。
千棘ちゃんの式で出すウェディングケーキ作りに、二人に縁もゆかりもないのに手を貸している彼女――中野三玖ちゃんとの出会いは、調理師の専門学校だった。


和菓子同様、見た目は綺麗だけれど味に悪評のある私と、パン以外、初めて作るものはからきしダメな彼女。
なんでも軽々仕上げていく同級生を後目に、センスがないと言われた私たちがセットに扱われたのは、だから話す機会も多くなったのは、当然だったかもしれない。
だけれど。
学年の終わりに、トップの評価を受けていたのは、三玖ちゃんだった。
歩みは遅くとも、うまくいかなくても、自分で選んだこの道は極めると決めたから。
そう言って、鬼気迫るぐらい、真剣に取り組む顔を見ながら、私は彼女に、いつか聞こうと思っていた。
三玖ちゃん、あなたは誰に向かって、この進路を誓ったのって。

「小咲が、一番お菓子を食べさせたい人って、誰?」

まぁ、いつものようにぐずぐずしてるうちに、逆に聞かれて面食らってしまったんだけど。
「好きだった人、だよ」
あの頃と変わったのは。自信をもって、そう言い切ったこと。
三玖ちゃんだけだからね、と私は顔を赤らめて話した。
初めて他人に話したからどう説明したらよいか分からなくて、行きつけの喫茶店閉店時間を初めて知るぐらい、話した。
三玖ちゃんの部屋に場所を移し、話して、話して、話し切った。
極道の家の二代目と、ギャングの一人娘が、街を守るためにしたニセコイが、いつか幼いころの約束を覆すほどの、本物に育った話を。
「そんなこと、本当にあるんだ」
目を丸くして、輝かせて。鼻をふんふん言わせて普段の彼女からは想像できないぐらい、三玖ちゃんは興奮していた。
でも小さな高原での話の結末を聞くと、三玖ちゃんはいつもの無表情、いや、もどかしそうな顔つきで、言った。
「小咲は、何故それを、笑顔で話せるの」
「思いは、伝えられたから」
「――ううん。それは多分、認めたくないか、深く気づいていないだけ」
それから三玖ちゃんは語った。語りに語った。
五つ子という形で世界に生まれ落ちたこと。
姉妹が世界のすべてだったこと。
いつしか、私以上に引っ込み思案で内にこもりがちになっていた彼女が、高校で家庭教師をしてくれた同級生に、初めて恋をしたこと。
でも、五つ子みんなで、同じ人を好きになってしまったこと。
実の姉から成りすましまで受けて、仁義なき恋の戦いをしたこと。
結局、自分も姉もどちらも選ばれなかったこと。
やり場のない怒りを、彼に選ばれた妹と夜通しカラオケしてぶつけたこと。
それから、それから。
普段口数の少ない三玖ちゃんが堰を切ったように、話して、話して、目を剝いて夜通し話して。
疲労困憊でふたり倒れ込み熱を出し、学校に補習をお願いしますと頭を下げに行ったぐらいに、熱がこもっていた。

この恋は私を成長させてくれた。
私は四葉にはなれなかったけど、四葉だって私になれないって知れたんだ。
同時に、負けたくない、絶対譲りたくないって気持ちが生まれたことも、嬉しいと思っている。
この学校を出たとき、二乃よりも美味しいケーキを作ってみせたいっていうのも、そのひとつ。
負けたままは悔しい。絶対このままの自分じゃいてやらない。あの怒りと悔しさは、小さくなってはいるけど、決して忘れてないよ。
その気持ちを教えてもらった時、いつもなんでも笑って受け入れていた私という最中の皮が、ぱり、と破れた音がした。
ーーそして私たちは、より仲良くなった。
私の腕も、一段飛ばしぐらいで上がっていったと思う。
学校を卒業して年月がたち。
家業のせいで、日本では普通の店が引き受けてくれないと両家が困っているのを聞きつけた私は、 自らウェディングケーキの制作をかって出た。
そして、すぐに浮かんだのは彼女の顔。
直接頼みに行った私の顔を見るなり、三玖ちゃんはニヤリと笑い。
面白そう、引き受ける、と言い放ったんだ。


「我ながらカチカチ玉、いい出来だと思う」
「タバスコ玉は、ここにしようかな」
「間違えて他の人に渡さないようにね」
「大丈夫」
私たちの目の前に聳え立つ、天高く組上がったウェディングケーキ。
そこに隠すアクセサリーに、そんな名前をつけてみた。
花嫁さんはドレスと緊張で食が進まないと言うけれど、こと千棘ちゃんの場合、そんなことありえないだろう。
オードブルからメイン、デザートまで平らげて。
そして、私からのプレゼントが、口の中で弾けるだろう。
「手伝って、よかった?」
頷きすらせず、私は笑って肯定する。
ほかの誰でもダメだよ、たとえ春であっても。あの二人を知っている人には、ね。
ばらされたくも、気取られたくも、邪魔されたくもないから。
そこまで聞くと三玖ちゃんはふっと息を吐き、唐突に、

「Revenge is a dish best served cold.」
「え?」

親友の声で聴く突然の英語に頭が切り替わらず、私は聞き返す。
「『復讐は冷まして食べる料理』。フータローがね、何かの時に言ってた」
「おっかない」
「小咲こそ。こんな善人面して、悪だくみ」
私に人差し指をぴっと突き付け、三玖ちゃんが口元を歪ませる。
「愛を燃え上がらせるには、少しのワルモノも必要だと思うの。みんながやってた悪だくみって楽しいなって、この歳になって分かった」
じゃあ、小咲をそんな悪の道に誘ったのは、私かな?
三玖ちゃんが上目遣いの視線で問いかける。
「あの頃の私のままじゃ、言い出せなかった。仮にもしね、機会が巡ってきたとしても、涙の味を忍ばせることになったと思うんだ、きっと」
勇気。
好きでい続けたのも勇気。
「そんなのでふたりに罪悪感感じさせるより、びっくりした顔を指さして笑って、大ゲンカする方が、楽しいかなって」
彼の想いに気づき、ダメだとわかって告白するのも、結果を受け入れるのも勇気。
好きだった人の、結婚のシンボルを作るのも勇気。
「復讐ってほど、大それたことする気はないよ。万里花ちゃんのときみたいに、式を壊すことなんて思いつかない」
「あ……小咲は一度経験アリ、だったね。忘れてたけど」
「うん。逆にお祝いしたい気持ち、おいしくなった私の料理を、食べてほしい気持ちでいっぱいなんだ。でもちょっと、振られたことと取られたことに、悔しさはあるんだよって教えたい。それが『私なりのやり方』のお祝い」
そして、今の今のこのタイミングで、柄でもないイタズラを仕掛けるのは。
そうしたい、という自分の気持ちを認めるのは。
勇気ではなく、覚悟だ。
「三玖ちゃんがやるときも手伝うからね」
「大丈夫、私は親族席だし。小咲と違ってもう十分」
「そっか……だいぶこじらせちゃったんだね、私」
「うん」
「えへへ……」
「正直、ヤクザ、ギャング、チャイニーズマフィアが集う場でやろうなんて、頭おかしいと思う」
「えへへ、笑って看取ってくれると、嬉しいかな」
「花嫁さんとどうなっても、私は知らないよ」
「うん。でもきっと楽しい報告ができると思うよ。待っててね」

あれから時間をかけて磨いた腕によりをかけて作りました。
親愛と祝福たっぷりに、少しのリベンジを詰め込んだ、私からの特製ウェディングケーキ。
千棘ちゃん、一条君……いえ、らくくん。
さぁ何も考えず、まずは口いっぱい頬張って。
ようやく形になった私の気持ち、思う存分、召し上がれ!

理珠とうるかの誕生日について(ぼくたちは勉強ができない・私論)

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先日『五等分の花嫁』の中野家五つ子誕生日を受け、いまだ公開されていない二人の誕生日についての個人的な考えです。
後付け設定すると「なんで成幸、お話の中で祝ってくれなかったのさ!」となるから明かされないんでしょうが、それをなるだけ避けられそうな日を考えてみました。
SSではないので、ヒロインズの呼び方は固くしています。

<まずは私の仮説>
理珠は「3月2日」、うるかは「8月14日」ではないか?

<決まり方を振り返ろう>
そもそも、他のヒロインの誕生日はどう決まってるのでしょうか。
作中で明確に誕生日が出ているのは、 小美浪あすみ(4月9日)・桐須真冬(12月28日)・関城紗和子(8月3日)の3人。
そして、作中ではありませんが、作者の筒井大志先生から明言された古橋文乃(10月23日)も、公式設定として加えてよいでしょう。
文乃の誕生日に言及したツイートで、筒井先生は、"「ふみ」のなので、10/23です。"と発言されていますので、「語呂合わせ」は一つの要素として考えてよさそうです。
紗和子も「さ(3)わ(≒は=8)こ」で、3と8が使えそうなところ、理珠ルートが夏を舞台にしていたので8月3日になったと、私は推測しています。
そして、ここからは推論に推論を重ねてしまいますが、名前から数字が出てこない場合は、関連する語句やイメージからの発想なのかなと。
例えば、あすみ。これは数字からの逆発想で、非常に非常に言い辛いのですが……昼食にも事欠く、浪人中の苦学生という環境「四(4)苦(9)八苦」が由来なのかなと思われます。 また、4月生まれとすることで、三人娘たちよりも確実にお姉さんというイメージも付きますし。
そして、真冬。キリスト教がモチーフと最終巻後書きで明言されていますので、クリスマスでもよさそうですが、それではあまりにあざとい。
なので、教会暦でいうクリスマス時期――ミッション系大学の説明から引きますと、キリスト降誕を待ち望む期間(降臨節)からキリスト誕生を祝い、地上への顕現を祝う顕現日までの約5週間――の間で、冬休みのため生徒や同僚に祝われる可能性がなく、かつ、年末~松の内という他の祝い事とも被らない、仕事納めの12月28日がチョイスされたのかと考えます。

<では、理珠の誕生日は?>
では本論です。まずは理珠。
勉強係を始めた段階では、成幸が理珠を女の子として意識していませんから、誕生日は知らないと考えるのが自然です。
何か、原作の描写からうかがえることはあるでしょうか。
ひとつの鍵になるのは、紗和子。熱烈な理珠好きの彼女が、理珠の誕生日へ言及している場面はありません。理珠ルートで自分の誕生日を祝われた時でさえ、です。
もし、理珠ルートの共同生活中に理珠の誕生日が来ていたとしたら。必ず祝ったでしょうし、理珠の時はこうだったわね、私のプレゼントは気に入ってもらえてるかしらとか、何かしら言い出しそうです。
そもそも、紗和子の誕生日が明かされたのは、理珠が、うるかと唯我家で停電に遭った昔を回想しながら話を振ったからです。もし仮に、4月や8月付近が自分の誕生日だったなら、この時に自ら触れてもおかしくないでしょう。
つまり4~8月は可能性として低い、と考えてよいのではないでしょうか。
また理珠には、高1の時から親友の文乃がいます。文乃の性格的に、理珠の誕生日を知らないままで過ごす、知ってて何もしないというのは、考えにくい。
理珠が文乃の誕生日を祝っているシーンもないため、描写を省いたというのは簡単ですが、理珠の好意をかなり早くから知っていた彼女。成幸と顔をあわせている時期であれば、「もうすぐりっちゃん、誕生日なんだよ」と耳打ちしてくれるんじゃないかと思います。
誕生日を知った成幸が、理珠にプレゼントを渡すタイミングには事欠きません。なにせ理珠は成幸と、すごく一緒にいる女の子です(ふんす)。
平日は勉強会でほぼ毎日、夏休み中は夏期講習。教師を目指すと決めてからは緒方うどんでバイトもしてるし、お正月にも二人きりで会っています。センター試験後にも、紗和子と唯我家に勉強に来ていますしね。
紗和子が言及することも、文乃が教える機会もなく、成幸が理珠に渡すチャンスもない。そんな時期はあるのでしょうか。
原作中の8月以降で、成幸が理珠にも紗和子にも文乃にも会わなかったと思われる時期は極めて限られます――バレンタインデー後から入試(国立前期日程)の日、そしてそれから、合格発表があるまで。現実世界では2月15日~2月25日前後~3月6日前後。
この時期であれば、皆もあえて理珠の誕生日を話しそうにはないですし、仮に文乃がスマホ経由でその情報を伝えたとしても、成幸がお祝いをするためには、個別に呼び出すか、親父さんの待つ家に行くかです。他のヒロインに気持ちが向いている時は、決してしないはず。
最も好意が強くなる理珠ルートでは『ゲーム』の縛りがありますから、文乃も余計な口出しはしないでしょうし、理珠も、合否待ちの微妙なタイミングで自ら「私、もうすぐ誕生日なんですよね」とは言い出し辛いでしょう。
この期間の間に、何かの語呂合わせのできる日はあるでしょうか…… 苦しいですが、「ス【リー】・【ツー(≒ズ)】」で「3月2日」。
ついでに、ちんまいちんまい言われる理由も、早生まれということで……って歳でもないですね(苦笑)
仮説:数字の語呂合わせ「スリー・ツー」で3月2日ではないか?

<うるかは?>
うるかは理珠より難しいです。まず語呂合わせは(私には)思いつきません。すると原作を追って、ありえない可能性をつぶしていくしかありません。
理珠と違って、うるかと成幸は長い付き合いです。物語が始まる高3春の時点で、成幸が誕生日を知らないという可能性は、極めて低い。もし成幸がぼやっとしていても、うるかの好意を知っていて、水希の誕生日まで把握している同級生・小林が教えないわけがない。
すると、考えられる可能性としては「知ってはいるけれども、わざわざ家までプレゼント渡しに行くのは恥ずかしいな」「でも次会うときは、祝うの遅すぎるな」という状況でしょう。
中学・高校共通でそれが考えられるのは、長期休みである夏休みか春休みのど真ん中あたりでしょうか。
しかし、春休みの中頃――3月中~下旬だと仮定すると、うるかルートで全く言及がないのはおかしい。(現実には不自然なぐらい遅い)一ノ瀬の卒業式は3月下旬と思われるので、うるかに告白されてから合宿、そして返事に悩み、空港で想いを伝え、旅立ちを見送るどこかに、うるかの誕生日があるはず。成幸がそれを無視できるわけがありませんよね。
もし卒業式以降の誕生日だったとしても、うるかとしばらく会えなくなるんですから、空港で何も言わないのも、プレゼントをあげないのも変です。
というわけで、うるかのアイコンである水泳のシーズン、夏の方で考えてみます。
それっぽい日はあるかと『プールの日』という記念日を探しましたが、残念ながら存在しないようです。
では『水泳の日』は? あります。8月14日です。
この日は旧盆中なので、受験時期はさておき、中学生の成幸は、家族と輝明さんを偲んでいることでしょう。また、現実世界の高校の水泳大会は概ね8月20日ごろですから、1週間前の水泳部が本番に向けた猛練習中であることは、想像に難くない。
だから成幸も、邪魔をしないようにと控えめに――例えば当日、水希と連名で、お祝いと応援を兼ねたメッセージを、ようやく慣れてきたスマホから送る程度にしたのではないでしょうか。これなら深く描写するまでもないし、うるかもへにゃっとなるぐらい喜びつつ、「応援ありがと!」ぐらいの返事をして完結。
夏祭りがかなり微妙なタイミングですが、たとえ数日間でも誕生日の前なら、この日に言及しなくても不自然ではない。そしてこのあとは、大会のことと「告白の練習」のことが大き過ぎて、2人とも改めて祝うどころではなくなったのでは。
仮説:『水泳の日』の8月14日ではないか?

<終わりに>
少し前、Twitter上で「原作者に展開予想を送り付けると、パクったパクられたトラブルを防止するため、その展開は絶対日の目を見ない」という呟きを見ました。
あくまで原作とどうやったら整合性が取れるかなという、個人的な推論であることを繰り返しておきます。
仮にいつになったとしても……二次創作で補完する準備はできている(笑)

あすみがいない明日を見て(企画応援SS・涼's world side)

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※涼さんの小ネタで、マチコがメイドカフェオーナーになっている世界線でのひとこまです。
 
 
春の近づくこの季節、卒業に縁があるのは学校だけではない――いや、世の中が四月をひとつの区切りとするせいで、この店も否応なく巻き込まれているという方が正しいのだが。
開店前の無人のフロアに立ち、そこで駆け回っていたころ「マチコ」と呼ばれていた彼女は、二日酔いを残した頭でもの思う。
経営者というのは、つくづく面倒なものだ――
その手には――十数秒前にエスプレッソマシンから受け取った漆黒のコーヒー。一口啜り、熱さと苦さで呆けた頭に覚醒を促す。  
この春も、店に馴染んだ顔が節目を理由に姿を消した。惜しむ気持ちは持ちながらも立場上――代わりのメンバーをいつどれだけ集めようか、を冷静に考えるのが彼女の仕事だったから。
店内をカップとともに散歩しながら彼女は思考を進める。
可愛い女の子が働く店というコンセプト上、成長とともにメンバーが入れ替わっていくのは必然で。たいていは客と同僚にささやかな小波を起こした後、日常が戻って来るのだが、時に容易に埋められない空隙もあって。
切り取られ断面を晒すホールタルトを見るような――エースが抜けてしまった時の喪失感。
それは人気連載が終わったばかりの漫画雑誌にも似て。言語化できない物足りなさや、追いつく機会を永遠に失い勝ち逃げされたような敗北感を、周囲の人々に植えつける。
カップから多めの一口を吸い上げて、彼女は思い出す――自分が経験した中で最大のそれは、遥か昔、親友が『卒業』したときで間違いない――と。
ある時から全力スマイルの裏に、喪失、としか形容できない空気をまとわせ、ほどなくこの店を巣立った親友。
医者の勉強に専念したくて、と説明していたその内心に何があったか。本人の口から教えられたのはつい昨日のことで。
それは年相応の恋愛――本心を言えぬまま終わった後悔や、想いが届かなかった失恋――とは一線を画した。
もちろん、当時からそんなことが原因とは彼女も信じていなかった。万一親友がそんな瑣事を隠そうとする素振りが見えたら、おのずから口を割りたくなるよう、愛ある尋問をしただろう。
当時の親友に感じたのは――罪悪感。
自分は決して許されてはいけないという罪の意識――誰がそこに踏み込むことを許されるのかと思うほどの、拒絶だった。
だからこそ自分さえ、見守る以外の行動を許してもらえなかったのだ。せめて友人の立場でい続けたかったのであれば。
遠い離島からはるばる戻ってきた親友が想い人を連れ、昨晩、中学生もかくやというような赤面で報告してくれたから。もう一人の親友ヒムラと、お酒と質問とからかいを浴びせに浴びせに浴びせて、心に刺さっていた棘を抜いたのだけれど。
生乾きの痕が問いかける。
もしあの頃――他の誰かが唯我成幸と結ばれた世界があったなら。
立派な女医になった親友は、あんな痛々しい孤独をまとわず、振り切って、今日まで別な時間を過ごせていたのだろうか――
 
(ごめんねあしゅみー、そのぐらいの意地悪は許してね。毎年、年賀状もらうたび、私どれだけ心配したことか)

親友が最愛の人と結ばれたこの世界を、否定するつもりは一切なくて。
むしろ他の誰かにかっさわれるような愚図をしそうならきっと、バックヤードで手のひとつもあげていたなと思いつつ。
今なら冷静に思い返せる、同僚であった彼に自分も抱いていた仄かな好意も混ぜ――しばしマチコは空想する。
小美浪あすみ以外の子を選んだ彼がいたとしたら、この街で、いったいどんな顔をしていたのだろう――と。

文乃不在の喫茶店(企画応援SS・こんぺいとう's world side)

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※本作は、こんぺいとうさんの「古橋文乃ストーリーズ」の世界の三次創作(二次創作の二次創作)です。未読の方はぜひこの機会にご覧くださいませ。

shiroxatou.hatenablog.co

 
銀星珈琲の朝は早い。
朝一番の客としてからんとドアベルを鳴らし、着ていたスプリングコートを乱雑に脱ぎながらいつもの席に座るまで、数十秒。店の奥の気配を感じるまで、さらに十秒。なのに、奥から出てきた店主にコーヒーと頼むまで、あたし天津は、柄にでもなく体を震わせ、落ち着かなかった。
「妙にそわそわしてるじゃないか天津。古橋を見習って、これから男と待ち合わせかい?」
不審な様子はとうにお見通しだろう、火にかけ始めた銀のポットからあがる、湯気の塊の向こうから、店主のからかい声がした。
「幻聴かな? 妙な単語が聞こえたけど。まあ春だしね」
あたしはぞんざいに返す。人生の大先輩でもあるマスターに対し、ずいぶんなご挨拶だけど、あたしの中身を知っている麻子さんなら、冗談も選びようがあるじゃないか。いや、知っているからこそ選んだかもしれないが。
「じゃあいつぞやみたいに、古橋と彼氏の仲直りの手伝いかい?」
「もうあんな経験はできないね、絶対に。唯我くんはあの手の失敗を繰り返すアホじゃない」
「違いない」
苦笑が聞こえて、また開いたばかりの店が静寂に戻る。
麻子さんがドリップを繰り返している間も、見慣れた窓の外を見ながら、あたしは足を繰り返し動かし、時々催促するように床を踏み鳴らす。いつ以来だろうか、こんな緊張感は。
しばらくして、時代がかった花柄のコーヒーカップが置かれる。
置かれるなり、よく確かめないまま熱々の中身を一口飲んであたしは、
「!?」
口じゅうに広がった奇妙な風味に、取り繕うこともできず、顔をしかめた。
よくよく見れば、色もややうっすらとして、想像していたのとはまるで違う。
「これ紅茶じゃん!!」
「ご注文通りコーヒーだよ、 れっきとした。高級なんだから、文句を言ったらバチが当たるよ」
そう言った麻子さんは戻ったカウンターの後ろから、小ぶりな豆の袋を取り出し置いた。
「普段のブレンドには使わないけどね」
エチオピア・イルガチェフ。薄暗い店内で何とか表面の単語を読み切って、嘆息する。確かにあたしは、ブレンドと言わずコーヒーとだけ注文したから文句は言えない。完全に一本取られた。
もう一度、今度は覚悟して、その液体を味わう。
「……うん」
浅煎りなのかどこか薄口で、エキゾチックな果実味に隠れた粉の苦みに、あたしの舌もようやく、これもコーヒーなんだと認識する。ただ、あたしはいつもの味の方がより好みだ。
「春だからね。いたずらの一つもしたくなったんだ、その分のお代はいいから許しておくれよ」
そう言って麻子さんはいつものカップにいつものブレンドを注ぎ、モーニングのトーストと共に傍に置いてくれる。
最初からあたしが来たらこうするつもりだったか、それとも朝一番に生意気な口を聞いた若造への『お仕置き』だったか(まぁ、春だからね、の響きからして、確実に後者だろう!) 相変わらず茶目っ気の強い人だ。
仕方なくあたしは、さっきから続けている不審な態度の理由を白状する。
「―—文乃ちゃんが、初めて学会に出るんだ」
「おや」
トーストをかじる音に合わせて、麻子さんが意外そうな声を上げる。あたし同様、この店の常連の彼女が、店主にそのことを内緒にできるとは思えない。今のおや、は、他人の発表にそわそわしているあたしの態度に対して、だろう。
「研究室の都合で、今回、一緒には行けなかったからさ」
言っている間にも緊張で喉が乾く感じだ。あたしがこの例えをするのは確実に不適切だろうけど、大事な娘を嫁に出す父親というやつは、たぶんこういう気持ちなんだろう。彼氏の唯我くんも舞台が学会では、応援しかできないだろうし、今頃同じように気が気じゃないに違いない。それだけ心配したくなる後輩なんて初めてだ。
「文乃ちゃんの実力なら平気かなって信じつつも、やっぱり学会独特の空気はさ、心配で。でも向こうで、別の学会に出る高校時代の仲間に会えるからって、本人は楽しそうだった」
「へえ、学会に出るって、ずいぶんな友人だね」
「ちょっと説明しづらそうだったけど、『仲間』だって強調してた。ちなみに同性だよ。たぶんもらった写真にいた」
あたしは、集合写真のデータをスマホに映し、誘う前から寄ってきた麻子さんに拡大して見せる。
まず前提として、この写真に写っている子は全員、お姫様と名乗っていいほどの美人揃いだ。その中から指さした彼女も、とびきりの美人の域。
そう、美人なんだ。
「これはまた……面白そうな子だね」
でも、麻子さんの年季の入った上手な言い回しに、あたしも苦笑を並べる。そう、人当たりがよく分かりやすくて誰からも親しまれる美人の文乃ちゃんに比べて、一筋縄ではいかせないぞ、という瞳。こういうのが好きな男にはたまらないだろう。
改めて画面に目を落とす。雰囲気から、この子をはじめとする他のみんなも、この中に唯一映る男性に好意を持っていたのは間違いない。
あの文乃ちゃんがぞっこんになってしまう「成幸くん」。当時は他の女の子にもさぞ一生懸命で優しかったんだろう。意識せず距離を近づけるような振る舞いなんかして、彼女たちをやきもきさせたりして。
奥ゆかしくて優しい文乃ちゃんはたぶん、自分の意に反して応援なんかしちゃっただろう。そうこうしているうちに女の子同士、恋のさや当てを始めて、どっちを応援すればいいのと迷ったりして! きちんと想いが届くまでは、きっと胃薬が手放せなかったに違いない。
「……なんだい、今度は締まらない薄ら笑いなんか浮かべて。本当に落ち着かないね天津」
「……いや、ちょっとね、くっだらないことを考えてさ」
本当に本当に、そんなことだ。文乃ちゃん風に言わせてもらうなら「ほんの少し妄想で遊んだって、許してほしいんだよっ」というところ。あたしにここまでさみしく不安な思いをさせてる可愛い後輩への、少し意地悪な妄想だ。
もし文乃ちゃんが、当時彼女たちの誰かから、唯我くんを意識させたいから協力してほしい、なんて相談を受けたら、なんて。
もちろん、神様が何回サイコロを振ったところで、その後の結末は絶対に今と変えられないと確信しているからこそできるお遊びだ。あのふたりが一緒にいるところを見て、この世には人知を超えた深い絆があると気づかない輩がいるなら、思い上がりを糺す必要があるから、ぜひ目の前に連れてきてほしい。
その証拠に、試しにやってみても、唯我くんが文乃ちゃん以外を意識している顔を思い描くのは、驚くほど困難だ。
「春だからね」
悪戦苦闘するあたしに見切りをつけ、からから笑って、麻子さんは奥に引っ込む。
「……しかしあたしが、許してほしいんだよっ、とか言ったら、ねぇ?」
我ながら本当に似合わない言い回しだな、と苦笑して、あたしはいつものコーヒーの続きを啜るのだった。