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「恋愛ができない」とは?(とある考察に対する私見)

前略、『ぼく勉は失敗』認定*1の中で、比較的論理が立っていた、といわれる以下記事。


anond.hatelabo.jp


anond.hatelabo.jp

この中で主張されている『うるかの『恋愛ができない』は残ったまま」の部分を中心に、あやふやな土壌で二次創作を実らせている私めが、若干の私見を述べたいと思います。

<そもそも「恋愛」とは>
字書きの端くれなのでまずは言葉の定義から。
いくつもの辞書を引く代わりにWikipedia先生がまとめてくれているのでリンクを。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%81%8B%E6%84%9B

具体性の高い新明解第8版の記述*2「特定の相手に対して他の全てを犠牲にしても悔いないと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと」を筆頭に、恋愛は「気持ちをもつ」「思う」行為とされています。
だから辞書的な意味で言えば「恋愛ができない」は特定の相手を大切にする感情が沸かないという意味で、あ、うるかちゃんと恋愛できてるじゃん。むしろ恋愛できてなかったの理珠だよね。おわり。

<「恋愛ができない」とは>
揚げ足とるのはこの辺にして、作者の筒井先生が述べている文脈(かつ、多くのラブコメ読者が想定するであろう意味)での「恋愛」として考えうるのは、

(1)好意をもっている相手*3と特別な時間を一緒に過ごすこと
(2)好意をもっている相手と特別な時間を一緒に過ごし、その結果、相手からも今まで以上の好意を向けられること
(3)相手に好意を伝えること
(4)好意を伝えた結果、好意を伝えた相手と両思いになること
(5)両想いの相手と2人だけの時間を過ごし幸せな気分になること

あたりでしょうか。
作中で(1)は(うるかが意図したとおりに事が進んでいないかもしれないけれど)、成幸相手に何度も何度も成功しています。いわゆる片思いのままドキドキするやつですね。
(3)と(4)は、いわゆる告白とその結果と言い換えられて、恋愛のあるひとつの瞬間ですよね。極端に言えばキスと同じ。これを「恋愛」「恋愛行動」と定義するのはちょっと引っ掛かります。
残るは(2)と(5)なんですが、ここで思ったんですね。

――恋愛の相手って、成幸じゃなきゃダメなんでしたっけ?

<うるかは最後まで「恋愛ができないまま」だったのか>
結論を書きますと、冒頭で引用した記事の筆者は、
・「恋愛」ができるようになる(他のキャラなら「人の気持ちが分かるようになる」「自分の幸せを優先できるようになる」)
と、
・成幸と結ばれる
を一緒くたにしている印象を受けたんですよね。
確かに成幸と恋愛ができるのは自分のルートの時だけでしょう。ただ、他のルートで、うるかが恋愛ができないままだったのかは「わからない」ですよね。
例えば真冬ルート。うるかは結婚式に出席していると推定されているけど、あえて出席するからには自分も何らかの恋愛経験を経て、かつて好きだった成幸が結婚するのを祝福できるぐらい幸せな心境になっている、と想像することはそれほど変ではないと思います。てか、もし本当に「できない」まま、成幸への思いをこじらせていたなら、好き好んで自分から傷つくマネをしますかね?
他、理珠ルートで成幸に迫る理珠を見たうるかは「あ、好きなら相手の反応なんか気にせずもっとグイグイいかないとダメだったんだ」と学んで完全に吹っ切れたから黙って旅立ち、後日他の人とその反省を踏まえた恋をしたかもしれません。成幸にアクションするのだけが「できる」ことじゃないですよね。
文乃ルートでもいったんは失恋になりましたが、プールで会った時の描写から「友達にプレッシャーかけながら応援するのも楽しいぞ、いざとなったら奪い返せばいいし!」と純愛から一歩進んだ恋愛に基づく行動ができるようになった、と邪推することだって可能です。*4

もちろん、読者、特にうるか推しがそれで嬉しいか、という別の観点での問題はありますが、「できないの克服」と「成幸と結ばれる」は分けて論じないと、他のヒロインとの比較はできないですよね。

<って言ったって>
反論あると思います。自分がぱっと思いつくだけでも以下2つは。
(1)信者の妄想乙。実際に克服された描写ないんだから「できない」ままと解するのが自然。
→であるならば、他のヒロインの「できない」克服も、すべてのルートで描写されていないですよね。あすみルートや真冬ルートでは3人娘は進学先はおろか合否すら不明ですし、第150話のようなハッピーの保証があるかは『わからない』。ならばうるかだけ克服できないままだった、と取り上げるのは変では? 全員幸せにはなれっこないからダメな話だ、という論旨ではなかったし。

(2)うるかの克服条件を「唯我成幸の一番になること(恋人になること)」と設定して自分の首絞めたのは作者。
→うるかの判定基準をそこまで厳しくするなら、他の子の「できない」も、もっと限定しないとフェアじゃないと思います。例えばあすみも「父親の診療所を継げない」ぐらいに。そうすると「どこでも小美浪診療所」って結論も、論考でいうところの『できなかったけどその代替』と言えちゃうんじゃないですかね。殊更にうるかだけを取り上げる理由はないと思うのですが。
逆に「あすみのできないは克服された」とするなら、前述した通り、うるかも「できない」を克服している可能性があるとは考えられませんかね。

<以上を、何のために指摘したの?>
引用した記事の主張をざっくりまとめると、

ヒロインレースの常道に反し、最後に結ばれるヒロイン(=うるか)を途中で出すという手法が問題にならないぐらい、この物語は強固な構造でできている。

なのに、うるかの「できない」を留置するような形(一例としてマルチエンド)を取って、作者自らその美しい構造をぶっ壊した。だから読者裏切りの代償として、散々な批判を受けても仕方ない。

だと私は考えています。この論建てに穴があるんじゃ、と思ったんです。他のルートでもうるかの「できない」が克服されているなら、何も否定される謂れはないですよね、と。*5
個人的には、いつ打ち切られるかわからないジャンプ週刊連載の中で、筆者が一定の評価をするような『強固な構造』を意図して作るのは難しいのではと考えています。キャラ設定に童話モチーフを用いて、あとは受験の流れに応じて都度都度ふんわり展開させたんじゃないかと。*6だって、理珠に親指姫的な要素ほとんどなかったし。ネズミのばあさん役も旦那候補のモグラ役もいなかったじゃん。

<ついでに>
真冬の「できない」は『家族の反対を振り切って選んだ道が向いていないと思っている』ではなく「人に寄り添った指導ができない」ではないかと思います。*7
ただ、『本人の発言』と『一生徒であり指導方法を学んでいない唯我成幸ですら達成できた緒方理珠と古橋文乃の成績を向上させることに失敗している』ことをもって「できない≒向いていない(=才能がない)」と断言するのは、些か早計だとは思いますが。
成幸が文乃と理珠の指導に成功したのは、成幸が「勉強ができない」ところからできるようになった秀才タイプだったこともありますが、その他、
・彼らの同級生で、彼女たちが受け入れさえすればプライベートな付き合いもできるという間柄だった
かつ
・教員としての他の仕事はなく、社会人に比べれば指導に専念できた
かつ
・学園長からも短期で完璧な結果を求められず、比較的長期間のアプローチが許された
という要素が加わってうまくマッチした結果なわけで、桐須真冬の指導そのものが下手だったかどうかは、同じ与条件下でないと「わからない」。*8
実際、作中で真冬が成幸に世界史を教えているシーンがありますが、成幸は嫌な顔をせず普通に聞いてます。美春から指導を受けるとき、げんなりしていたのとは大違いです。また、補習で水泳を教えてる時も、ちゃんと泳げない側の気持ちに立って教えられてますし、真冬ルートでは新人の指導役になるぐらいには、優秀な教員モデルと見られていて、その時代の教え子たちからも相談を受けるぐらい慕われてますし。
最初の教え子の日野音子で失敗したというのも、教員として駆け出し&音大への進学希望という極めて特殊な相手へのアプローチ*9だったので、これを過度に一般化するのは、桐須真冬本人の認識も含め、問題だと思ってます。

<最後に>
『誤読』だの『信仰』だの『この作品の主張なのであって』だの『ジャンプで何年も連載していた漫画家を甘く見過ぎだろう』だの、随所でなかなか強い調子で他人の意見を斬りつつ自説を述べていらっしゃいますが、筆者が、
・アシスタントや編集者
または
・家族やプライベートな友人
など、この漫画の裏事情を知りえる位置にいたわけではない限り、どの考察もあくまで個人の推論の域を出ないのであって、どこかに「あくまでも私的な考察」「間違っているかも」という余地を残しておく方が安全かつスマートかとは思います。
が、匿名で存分に思いの丈を述べ読解力がない下々の者を教え諭したい、という願望を優先するのも個人の選択ですからね、止められません。代わりに有名なジャンプマンガの台詞をもって、本稿の結びとします。

『あまり強い言葉を遣うなよ 弱く見えるぞ』

*1:筆者の増田先生は当初失敗認定をする意図はなかったというが追記等を見るにそう括っても間違いとは言われないと思う

*2:第7版の記述の「特定の異性」の部分のみ書き改めた

*3:ぼく勉は異性愛が前提であるけれど、前述の新明解の改訂、及びこばやんルートを幻視する勢を考慮し同性愛も含めた書きぶりにする。以下も同様

*4:あくまで邪推。常識的に考えたら羨ましくてからかっただけと読むのが自然

*5:そもそも叩いている派の火点もそこじゃない気がするなーと思う

*6:これは実際に自分が他のキャラに童話モチーフを当てはめて書いた実感からもそう思う

*7:「この人ができないのは何ですか」という問いに「●●ができません」と答えないの、国語のテストならペケにされてもしょうがないのでは

*8:実際、成幸自身も第一話では諦めろと言って反発されているので、主人公じゃなきゃ同じ末路になってた可能性はある

*9:そもそも音大進学の相談を師事している先生ではなく普通科の教師に委ねている現実離れした描写については、全力でツッコミを受けても仕方ないと思いますが

かぜひきさん(ToHeart・神岸あかりSS)


※今日2月20日ToHeartのメインヒロイン・神岸あかりの誕生日。
急に懐かしくなって遥か昔の話を引っ張り出してきました。
初出は……聞かないでお願い(;゚∇゚)

〈HR〉

「おいそろそろ行かないとまずいだろ」
「だって……」
「お前に迷惑はかけたくない」
 オレの部屋にあかりが来ている。
 あらぬ想像をするんじゃないぞ。今のオレは病気で明日も知れない……
「カゼだって、こじらせるとひどいんだよ」
「もう十分こじれてる」
 ……。
 早い話、おとついからのカゼが悪化し、今オレはベッドからも出られない。
 そしてけさ、約束の時間になっても来ないからあかりが上がり込んできた、というわけだ。
「オレとお前二人休んだらなんて噂を立てられるか…」
「いいよべつに、いまさら」
「…おいっ、ちょっと今の発言待てっ」
「えへっ」
 この春、オレとあかりは正式に世で言う『恋人』になった。
 お互い舞い上がっていたのは1週間くらい。じきにいつものやり取りに戻っていった。
 オレもあかりもそれが悪いことだなんてこれっぽっちも思ってない、むしろ、二人らしくていいと思ってる。
 ただ、あかりのほうは時々今のようなきわどいセリフを口にし、オレが慌てるのを見て喜んでいる。
「でも朝ごはん食べて、ちゃんと休まないと。ごはん、食べてないんでしょ?」
 当然、こんな状態で朝メシなど準備できるわけがない。
「こんなもん薬飲んできゃ治るって」
 今の体調で1階に薬を取りにいったら、行き倒れになりそうな気がするけどな。
「ダメだよ、下手に解熱剤を使うと長引いたり、脳にダメージがいったりするんだって」
「それは初耳だぜ」
「わたし、今から作ってくる」
「そんなことやってたら絶対遅刻するって。それに、食欲がぜんぜんない」
 自分でも驚きだが、今のオレは熱が上がりすぎて、夏バテのような状態になっている。
 普段ならスナック菓子片手に連ドラからワイドショーのコンボを決められるはずなのだけれど。
「えっ!うそ……浩之ちゃんが食欲がないなんて…」
 あかりが絶句する。
「……オレを食欲の塊だと勘違いしてないか?」
「やっぱりわたし休む。ほおって置けないよ」
「ぜっったいダメだ」
「だって」
「お前のこと嫌いになるぞ」
 オレは絶対無敵のセリフを吐いた。
「………」
 これを持ち出すと、まずいうことを聞く。
「…う~ん、ならフレンチトースト作ってってあげる、台所借りるね」
 返事も聞かず、あかりは台所に駆け出していった。
 こりゃ遅刻確定だな。まぁ、学校に行くっていうんだったらいいだろう。
 たっく、お節介焼きなやつだな。
  

 あかりが出ていったのを窓から確認し、汗で湿ったベッドへ倒れ込む。
 起きあがってたせいでマットの上半身部分が冷えていて、とたんに鳥肌が立った。
 あぁ気色悪ぃ。まず着替えるか。下着はたしか…。
 うっ!
 身体を回し、足を床につけたとたん、意識が朦朧とする。
 視界が歪み、くらっとする。
 立てない。
 挟んだまま忘れていた体温計を取り出すと、40、4度。昨日から5分も上がった。
 これがインフルエンザというやつか。予防接種なんて無縁だったのが祟ったな。
 オレは着替えを諦め寝続けることにした。慣れだ、慣れ。
 ………。
 昨日の夜から使っていた氷枕が完全に溶けていて、ぶよんぶよんと頭の動きにあわせてへこむ。
 くそ、気持ち悪くて寝られやしないぜ。なんとか、出来るところで環境をよくしないとな。
 とりあえず仰向けから半身になり、氷枕を床に捨てる。
 そのついでにあかりが作ってくれた料理に手を伸ばす。
 指が震える。
 机の上にある皿を取るのさえ一苦労だぜ。
 黄色く色づいたフレンチトーストが視界に入るまでに、オレはくたくたになってしまった。情けねぇ。
 皿を口まで持っていき、なんとか一口かじる。
 力が全く入らない口でもふわっと切れ、適度な甘みが口に広がる。相変わらずあかりの料理はうまい。
 でも、一口食べて挫折する。頭を上げたことで、頭痛がしてきた。
 多少ほおり投げるように皿を元の位置に返す。
 がらん、と音がした。が、トーストは皿の上にあるようだ。
 なるほど、枕も上がらないってのはこう言う状態か、勉強になったぜ。
 …。
 …。
 ……。
 ……。
 …ヒマだ。
 ヒマ過ぎる。
 かと言ってマンガを読んで楽しんだりするほどの体力もない。なんたって昨日から苦しくて一睡もしてないのだ。
 だが、寝られない。
 それでも咳や腹痛が伴わないのは救いだ。
 …。
 ……でもヒマだ。
 そうこうしてるうちに、外で正午のサイレンが鳴った。
 …ヒマ過ぎて死んだら、死因はなんてなるんだろうな。『慢性退屈症』なんたらかんたら…
 おっと、病気だから、ついつい弱気になっちまったぜ。病は気から、住まいは木からっていうもんな。
 …………自分で自分の身体に大きくダメージを与えた気がする。
 あぁヒマだヒマだヒマだ。 
 誰か見舞いにでもきてくれねぇかな、ったってまだ学校だよな。
 あぁ最悪すぎる。
 病気になるって、こんなに嫌な事だったかよ。
 

「浩之ちゃぁ~~~んっ」
 

「あ、あかりか?」
 どたどたと階段を駆けあがる音がして、あかりが姿を現した。
「はぁっ、はぁ、はぁ…、心臓が破れるかと思ったよ」
「落ちつけ。……学校はどうしたんだ?」
「えっとね。その、急に先生がバタバタと風邪で休んじゃって、午前授業になって…」
「志保レベルの嘘だな」
「うぅ…」
 要は早退したらしい。
「浩之ちゃんが、だって、心配だったから。熱、下がった?」
「いいや。上がった」
 あかりの表情がにわかに険しくなる。
 さらにほぼ丸々残ったトーストを見て、残念そうな色も見せる。
「フレンチトースト、おいしくなかった?」
「いや、うまかった。でも、一枚食べきれそうになかった」
 オレは正直に答えた。
「……口移し、してあげる」
 そういうとあかりはトーストの端を少しかじって、口に含んだ。
「バカ、お前まで風邪引いたらどうするんだ」
 慌ててオレは後ずさる。
「前例があるから平気だよ」
「前例ったって、あれはな…」
 前例ってのは、オレとあかりが急接近した理由の一つで……カゼひいて休んだあかりに、キスしたときの事だ。
「あの風邪と今の風邪じゃ階級が6つは違う、オレが困る、やめろ」
「それに、移せば治るっていうし」
「お前以外の奴にだったらともかく、だめだ」
 しょうがないなぁと、ほとんど液体になったフレンチトーストをあかりは飲み込んだ。
「なにか、することない?」
「いいよ、べつに。それよりも代えのシャツ取ってくれ」
 自分じゃ取りに行けないから、こんなことでも頼まないとな。
「でも…そのまま着たら気持ち悪いよ」
「んな事知るか、とにかく今来てるの脱ぎたい」
「汗、ふいたげよっか」
「…全身だぞ、いいのか?」
「うん」 
 シャツにトランクスまで引っ張り出しつつあかりが言う。
 おい待てあかり。
 オレの言った意味ちゃんと分かってるのか? ボケを素で返しただけか?
「…おい」
「ん?」
「なに下着まで取り出してんだよ?」
「どうして?」
「お前の目の前で下着代えられるかっ!」
「…べ、別に見ないから…」
「そういう問題かっ」 
 やっぱり気付いてなかったんじゃねえか。焦らせるなよ。
 全く、ニブすぎだぞあかり。
「もういい。今から寝る、おやすみ」
 オレは窓を向く、つまりあかりに背を向けた。
 …寝られる見込みなんかねぇけどな。
 すると、
 
 ふさっ。
 
「?!」
「おじゃましま~す」
 何を思ったかあかりが制服のままベッドへ入り込んできた。
「お、おいこらっ、入って来るなっ!」
「えへへ~」
 追い出してやりたいところだが、そんな力すらオレには残っていなかった。
「本当にうつるだろ、離れろ」
「じゃ、むこう向いてるね」
 布どうしがこすれる音がしてあかりの背中がぴったりくっついた。
 心臓の鼓動がもろに来る。
 断っておくが、シーツを代えることすら出来なかったからベッドの中はムレてぐしょぐしょだ。着てる服も同様。
 いて気持ちのいい場所じゃない。
 それにしても…幾ら恋人どうしだからって、いきなり「がばっ」とか言うパターンを考えないのだろうか?
「…いいよ」
「…何を期待してるか知らないが、無駄だぞ」
 冗談ではなく本当だ。
 ヤル気が起きてないのではなく、あかりの体温にも身体の方がぜんぜん反応しない。
 『衣食足りて…』って奴だな。まず命が大事って認識してるんだろう、人間ってほんっとよく出来てるよな。
「そっか、残念だな」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「浩之ちゃんが休んで、みんな珍しがってたよ」
「そっか?」
「うん、雅史ちゃんも『浩之も人並みに風邪引くんだね』って言ってたよ」
「…」
「そしたら志保が『バカが風邪引くなんて、神さまも調子悪いのかしらね―』って」
 あいつら……覚えてろよ。
「それから、体育で、球技の選択があったんだって」
 しまった、それは大きいな。
 うちの学校は2年から、体育でやる種目の選択ができる。
 一度選択すると次のテスト後まで変えられないから、やりたい種目を取るためみんな大マジだ。
 超人気のバスケからは確実にもれただろう。あぁ、無理してでも行きゃよかったぜ。
「あと、…数学で、課題が出て……」
 ふと、あかりの声が小さく、途切れ途切れになっていた。
「眠いのか?」
「ううん、平気。…当たったひと、次のじかん、まえにでて書けって…」
「まさか、俺当たってないだろうな?」
ひろゆきちゃんはあたってないから、だいじょうぶだよ」
「そっか」
 危うく登校拒否になるところだったぜ。
「あとで、ノートみせてあげるから」
「おぅ、頼むぜ」
「………」
「………」
「………」
「………」
「……」
「……」
「……」
「……」
「…」
「…」
「…」
「…あかり?」
「…」
「……」
「……すー」
「……」
 いつのまにかあかりは、オレより先にすーすー寝息を立てていた。
 たっく、しょうがねぇなぁ。
 オレは眠ったあかりに、キスをしようとして…
 やめた。
 こんな悪性のカゼ移しちまったら悪いからな。我慢してくれ。
『感謝の気持ち』は、治ってからな。
 
「お~~~~~~~~~いっ、ヒ~~~~~~~~~~ロ~~~~~~~~~」
 
 直後、玄関先で日常よく聞く騒音が響いた。
「いるんでしょ~~~~へんじのひとつくらいしなさいよ~~~~~~~」
 あのバカが…。近所迷惑を考えろってんだ。あかりと違って悪意丸出しだから腹立つぜ。
 だがちょうどよかった。
 オレは爆睡しているあかりを抱っこして、まだふらつく足で階段を下った。
 

 やはり、階段を降りるのは今のオレにとって苦行だった。
 ズダンッ!
 ダンッ!
 最後の段で足を踏み外し、景気よく滑ってこける。だが腕の中のあかりはなんとか守りきった。
「あっはははは、相変わらずドジねー」
 例の如く家人の許可なしに玄関に上がり込んでいるバカ野郎が大声で笑う。
「うっせえな、風邪で反応が鈍ってんだ」
 身体が弱っているから、ダメージも倍増だ。立ってるのもきつい。
「はいはい、そういう事にしてあげるわよ、まったくこの志保ちゃんにご足労させてるんだから少しは感謝の一言が欲しいわね」
 こいつに要求するのがそもそも無理なんだが、病人に気遣いすら見せない。こっちが『ご足労』してることをわかってもらいたいもんだ。
「んじゃ感謝の印にあかりやる。家まで持っててくれ」
 オレは腕の中のあかりを志保の肩に掛けた。
「あ、やっぱりここにいたの? たっくしょうがないわね、どっちが見舞いだかわかりゃしないわ」
 やっぱりだぁ?
「……お前、なんか吹き込んだだろ」
「あぁ、カゼだっていうから『カゼは人肌であっためるのが1番よ』なんて冗談で言ったらいきなり早退しちゃってね…」
 このバカは……狙ってやがったな。
「言っておくが、オレは何もしてないぞ」
 だがあかりのブラウスは寝汗で透けて、ブラが見えている。この状態でどこまで納得させられるかは疑問が残る。
「そうみたいね」
 だが軽く制服のブラウスのボタンを見てだけで、志保は頷いた。
 助かった。
 今こいつとやりあったら、負けるどころか体力を使いきって衰弱死するぜ。
「それにしても元気そうじゃない、サボってないで、明日は真面目に学校に来るのよ」
「おめ―に言われたくねーよ。じゃ、頼んだぞ、その辺に捨てて帰るなよ」
「貸しにしておくわよ、ヤックおごりだかんねー」
 最後まで悪態をついて、志保はようやく帰った。 
 志保、ちょっとあかりを読みきれてねぇな。あかりはそんなことのために来たんじゃないぜ。
 オレが単なる甲斐性無しだって?
 違うよ、それにな。
 しわがよるのも気にせず入ってきた制服の背中ごしだって、伝わる想いはあるんだぜ。
 ……な、あかり。

お昼のお星さま(シスタープリンセス・衛誕生日SS)

 泳げちゃいそうな色の空の下。
 駅から続く、長くて真新しい、パステルカラーのブロックの敷き詰められた並木道。
 そこを、ボクはあにぃと二人で歩いてる。
 えへへへへ……手をつないで、ね!
 あにぃは今日、ボクをプラネタリウムに誘ってくれたんだよ!
「衛は、おもいっきり身体動かせるところの方が好きかもしれないけど」
 なんて、すごく申し訳なさそうに言ってたけど、ボクは飛び上がって喜んじゃったよ!
 だって、そういうところって、ボクが小さかったときにしか行ったことなかったし……すっごくデートっぽくて、ドキドキしたんだ!
 おかげで昨日は、ちょっと、寝つけなかったぐらい……
「うわっ」
 突然、隣のあにぃから声があがって、手がぐいって引っ張られた。
 あにぃったらさ、あんまり端っこ歩いてるから、ブロックが抜けてるところで足を取られちゃったみたい。
「あははっ、あにぃ、そんな端っこ歩いてるからだよ。どーどと真ん中歩けばいいのに。で、そのプラネタリウムってどこなの?」
「もうちょっとだよ」
 その先に待ってた幅の広い階段を一気に上りきると、歩道の終点には……体育館くらいの高さがある、全面ガラス張りの、船みたい建物が建ってたんだよ。
 わぁお♥️
「着いたぞ、ここだ」
 真新しくて面白い形の建物に興奮したボクは、後ろからにあにぃの声を聞くなり中に駆け込んじゃった、てへへっ。
 お~い、あ・に・ぃ。早く来てよ。 ここまで来て、プラネタリウムが始まっちゃったらもったいないじゃないか♥️

 入ってすぐの絨毯は海みたいな青い色。吹き抜けの上まで伸びるらせん階段は波の色みたいなで、なんだか、あにぃと、船の旅に来たみたいな気がしたよ……。
「すっごくきれいなとこだね!」
「あぁ、先月出来たばっかりだからな。他の階は、科学館なんだって」
 ボクはもうグラウンドに出たみたいにワクワクして、階段も一段飛ばしで駆け上がっちゃった。
 ちょっと急いでたのは、時間がわからなかったせいもあるけど……その、恥ずかしいけど……。
 ……トイレに、行きたかったんだよね。
 だって上映中に席立っちゃったら、恥ずかしいから。
 あにぃが追いつくのを待って、窓に近づいたら面白いつくり。外に向いた窓が、船の窓みたいにまんまるで、それに魚眼レンズがはめてあって……外の景色が歪んで遠くに見えるんだ!
 えへへ……船、それも潜水艦みたい♥️
 そしてボクとあにぃは、一緒に映画館みたいな厚い扉を二つ開けて中へ入ったよ。

「わぁ……♥️」
 中に入ったボクはまた感心して、ため息がでちゃった。
 建物の真ん中にあるから外からは見えなかったけれど、ドームは想像してたのよりすごく大きくて……スケート場とも、体育館とも違った丸い天井がすごく不思議に見えた。
 まだ開いたばかりだからか、お客さんはちっちゃな子供連れのお母さんが二組。それとボクたちみたいな……カップルが一組。
 って、いいよねあにぃ、ボクたちそう呼んでも♥️
「えへへ……ボクとあにぃだけの貸切ってわけには、いかなかったね」
 壁についた手のひらに、ざらっとした感触がした。
 あれ……なんだろ。
 首を横に向けると、壁には一面に小指の先っぽくらいの穴。
 よ~く目を凝らしてみると、このドームの壁みんな、そうやって穴があいてたんだ!
「ねぇあにぃ、どうしてこの壁って穴があいてるのかな?」
「防音のためですよ」
 突然した女の人の声で振り返ると、そこには、スーツを来たお姉さん。
 係員さん、かな?
プラネタリウムは、光が漏れないように中と外とをしっかり遮断してるんです。そして星空を映すために綺麗な円形をしてます。だからそのままだと声が反響しちゃうんですよ。それを防ぐためなんです」
「そういえば、音楽室でも同じような壁見たことありますね……」
「そうですね、うるさくしないようにするという理由では同じですね。お客様の内緒話がドーム全体に伝わっては、恥ずかしいでしょう?」
「へぇ……でも、こんなにでこぼこしてちゃ、星が消えちゃったり歪んだりしないのかな?」
「大丈夫です。星はこの穴に関係しないくらいすごく小さいですし、有名な星座を形作る星は、穴に消えないような軌道を描きますから。プラネタリウムって、思っているよりずっと精密な機械なんですよ」
 お姉さんはくすって笑った。でもどこか、緊張してるみたいにも見えたんだ。
「すみません、ついでなんですが、見るのに一番いい場所って、どこですか?
「そうですね。ここなら投影機の後ろの真ん中辺りがいいと思いますよ。北の空が見えにくくなりますけど、そんなに北の空を見てもらうことはありませんから」
 えへへ、あにぃったら、ちゃっかりしてる♥️
「すみません、ありがとうございます」
「ありがとうございました!」
「はい。わたくし、今日が初めての解説なので、至らない点もあると思いますが、どうぞ楽しんで行ってくださいね」
 お姉さんはボクたちの先を切って、ドームの端っこの教壇みたいなところに登っていった。やっぱり係員さんだったみたい。
 その後姿を、あにぃは少しの間じっと見送ってた。
「あにぃ、どうしたの?」
「いや、どこかで会った知り合いだったような……気がして」
「そうなの? だったら、お話してくれば良かったのに」
「でもなぁ、これ以上じっと見てると、後で衛に、他の女の人とばっか仲良くして、ってむーってされそうだしなぁ」
「そ、そそそそんなことしないよ!」
「衛の目はそう言ってなかったぞ」
 そう言ってあにぃはパチっとウインクして見せて♥️
 も、もうあにぃ……ひどいなぁ。
 でも、コレってオトナ扱いされてる……ってことなのかな?


 場内が暗くなってきて、青空と夕焼けの雲が映りだすと、真正面……南って光る字の上に、パノラマ写真の風景が浮かびだしてきて……その中には、いっぱい見覚えのある建物が移ってたよ。
「あにぃ、ほらあそこ! ボクの学校がある」
「……あ、ほんとだ」
「ボクたちの乗った駅も見えてるんじゃないかな?」
『これが、この付近で一番高い建物に登った時に見える景色です』
 あのお姉さんのアナウンスが入ると、ドームの中はだんだんオレンジ色から夜の色に変わってきて……浮かんでいた雲の画像も灰色の虹の中に、消えていったよ。
『日が沈んで、皆さんがいつも眺めている夜空が見えてきました。いま皆さんが見ている夜空が、今晩、夜8時の星空です』
 手のひらに何かがこつんと当たって、ボクはドームの壁から目を逸らした。
 青っぽく光って見えたのは、あにぃの手。
『……ネオンや照明のため、多くの星たちの瞬きが、消えてしまうのです』
 暗くなったからこそって伸ばしたんだろうけど……あにぃのえっち♥️
 ボクは、自分からその手を重ねて、ぎゅって握っちゃった。
 太腿のところに押し付けて……えへ、今日はあったかいな……あにぃの手。ボクも、顔がなんだか熱くなっちゃう……♥️
『それでは、今晩は特別に、皆様を空気の澄んだ、遠い山の中へお連れします』
 画面に映る町の景色が暗くなって、そして深い青と緑のラインが浮かび上がって……山の風景になった。
 いつのまにか、映っていた月も消されてて…そして、目の前で星の数が一気に増えていったんだ。
 それは今までキャンプ場やスキー場で見たどの星空よりも多くて……何かに飲み込まれちゃったみたいで……。
「衛、上見ろよ」
 ボクの太ももに乗せた手でとんとんとつつきながら……話し掛けてきたあにぃの小さな声で見あげると、そこには……

 夜の雲みたいにぼんやりと空を横切る、白い天の川があった……

 それから、秋の星座の……ペガスス座のお話が始まって、大きくアンドロメダ銀河の映像が写ったりして……。
 冬の星座なら、学校でも習ったからお話できたけれど……途中から、そんなことも考えられないくらいボク見とれちゃって……流星が流れたのは、本当にびっくりしたな! あのたった一個の機械でそんなこと出来るなんて、思わなかったから。
 最後は、空いっぱいに星座絵が並んで、そして、消えていった。
 山の風景も消されて、本当に満天の星空と静けさだけがしばらく続いて……夜が明けた。
 ……見たいな。
 キャンプ場じゃない本当の山の中で、アウトドアのキャンプをして、夜通しあにぃとこうやって星空が見れたら、すごくすごく楽しいんだろうなぁ……。
 あんな山の中だと、夏でも夜は息が白くなっちゃうんだよね……。
 白い息をはぁ~って吐いて、ホットコーヒーを注いだマグカップをにぎって、身を寄せ合って……
 ……ねぇあにぃ、ボクがもっと……今のあにぃと同い年になったら、やってみようよ!


 外に出ると時計はちょうどお昼。
 ドアをでたとたん、二人同時にいっぱい伸びをして、お腹が鳴っちゃって……顔を見合わせて笑っちゃった♥️
「あにぃ、ありがとね! すっごく面白かったよ」
「たまにはいいだろ? でも俺もちょっとカラダ、動かしたりない……かもな?」
 ボクたちが入ってきた方とは反対側の出口は、駅から伸びていたのと同じブロックの歩道が延びてて……その先は川。
 そして、歩道の端の木には、小さくてすごく香るお花がたっくさん咲いてたんだ!
「わあっ、なんだっけこの花?」
 キンモクセイだなって、あにぃはすぐに答えてくれたよ。
 やっぱり、あにぃはボクのあにぃ! 何でも知ってるんだね!
 目を閉じて、身体をうーんと逸らして深呼吸。
 空は、プラネタリウムに来た時と一緒の澄んだ青空。
 ボクの生まれた季節の秋の風、暑くもなくて、寒くもなくて、走り出したいような空気……やっぱりドキドキする、ボク、落ち着かなくなっちゃう……。
「たまにはこういうのもいいだろ? でも俺もちょっとカラダ、動かしたりないかもな。よしっ、河川敷まで、競争するか?」
 そんなボクの心、読まれちゃったのか、あにぃは珍しくそんな誘いをかけてくれたよ。
 もしかしたら、カラダでうずうずしてるってこと表現しちゃってたのかな、てへへっゥ でも、そうこなくっちゃ! 
 やっぱり、汗かくくらい運動するの、ボク大好きなんだからぁ!
「うんっ! よぉっし、ボク絶対に負けないからっ」
 えへへ、けどきっとあにぃ、マラソン大会以降全然走ってないんだろうなぁ。
 ボクはあにぃに負けないように、最近はダッシュの練習もしてるもんね。
 気軽に誘っちゃって、ちょっと後悔してるかもね、くすくすっ♥️
「伸脚、アキレス腱っと。もうこっちは準備いいぞ。衛は?」
「……うん、だいじょーぶ。いこっ、せーの」

 よ~い、どんっ!

久保さんは僕を許さない・ポエムデータベース7(第121話~最終話)

【最新話が出たら随時更新します】
※20話でひとまとまりにしてましたが、ここだけ最後までまとめてます。
内容および話数は、スマホアプリ「ジャンプ+」掲載のものです。なお、ポエムの原典はほぼ縦書きです。
※誤りがありましたら遠慮会釈なくご指摘ください。

ポエムデータベース1(第1話~第20話)はこちら
ポエムデータベース2(第21話~第40話)はこちら
ポエムデータベース3(第41話~第60話)はこちら
ポエムデータベース4(第61話~第80話)はこちら
ポエムデータベース5(第81話~第100話)はこちら
ポエムデータベース6(第101話~第120話)はこちら
⇒ポエムデータベース7(第121話~最終話)はここ

【episode.121】人生ゲームと子だくさん
(扉絵)
切なさを思い出すもの。
炭酸の味、花火の音。
髪の匂い、空の色。
(結び)
かーっ!

【episode.122】お弁当と練習の成果
(扉絵)
サイレンが空に溶けていく。
叶っても、叶わなくても、
夢見た軌跡は無くならない。
(結び)
ひとつずつ“次”を紡ぐ。

【episode.123】好きな人と好きな人
(扉絵)
憧れのままではどこまでも遠くて。
色褪せて初めて、あなたの姿が見えてくる。
(結び)
好きな人に、好きな人が、出来た。

【episode.124】沙貴と渚咲
(扉絵)
注ぐ愛と、見上げる恋と、
変わらぬ心と、途絶えぬ記憶。
(結び)
そして少女は愛を知って――。

【episode.125】視線とタイプ
(扉絵)
一瞬で過ぎ去る光が、
瞼の裏を青く染める。
(結び)
両片想いは難しい――…。

【episode.126】修学旅行と自由行動
(扉絵)
―なし―
(結び)
友達ダチ友達ダチもいい奴なんだぜ。

【episode.127】二人きりと意気地無し
(扉絵)
恋は魔法なんかじゃなくて。
ささやかな奇跡を希う、
臆病で恥ずかしがり屋な祈り。
(結び)
想いを、言葉に。

【episode.128】返事とにこにこ
(扉絵)
想い、凝り高まるほど、
言葉、ほどけ落ちて。
(結び)
見えないところで想い合う。

【episode.129】報告と計画
(扉絵)
しなやかに、 軽やかに。
淡い嘘さえ使いこなして。
(結び)
一生モノの、旅が始まる。

【episode.130】新幹線と隣の席
(扉絵)
―なし―
(結び)
目的地まではもう少し。

【episode.131】鹿と集合写真
(扉絵)
―なし―
(結び)
君から始まる思い出が増えてゆく。

【episode.132】お風呂とシャンプー
(扉絵)
―なし―
(結び)
前途多難――…!?

【episode.133】班行動と伏見稲荷
(扉絵)
―なし―
(結び)
ふたりドキドキ、見てソワソワ。

【episode.134】迷子とおもかる石
(扉絵)
―なし―
(結び)
日和ひよ少年モブじゃいられない。

【episode.135】捜索と協力
(扉絵)
Present for you.
秘めた言葉の代わりに。
(結び)
“見つける”方は得意――…!?

【episode.136】「いま」と「また」
(扉絵)
―なし―
(結び)
そして“特別だったね”と笑うんだ。

【episode.137】期待と不安
(扉絵)
―なし―
(結び)
ドキドキが響き合う、運命の明日へ。

【episode.138】清水寺と老夫婦
(扉絵)
立ち止まって、振り返ると、
ぜんぶの出逢いと偶然が、
当たり前の顔で煌めいている。
(結び)
来た道を振り返り、行く道を夢見る。そして、隣にはずっと君がいる。

【episode.139】ドキドキとドキドキ
(扉絵)
―なし―
(結び)
えっ!?!?!?

【episode.140】勇気とタイミング
(扉絵)
ドラマチックじゃなくても、きっと、
ロマンチックな結末が待っている。
(結び)
ちゃんと伝えるから。

【episode.141】明菜さんと沙貴ちゃん
(扉絵)
いつか、このふたりも、
きっと物語を紡ぎ始める。
(結び)
最後の“関門”――…?

【episode.142】言葉と信頼
(扉絵)
やがて、わがままに走り出すいのちは、
きっと、大きなときめきを見つけ出し、
ふたたび、あなたのもとへ帰ってくる。
(結び)
ただひとつだけ、僕を動かすのは、君に正直でいたい気持ち。

【episode.143】当日と教室
(扉絵)
―なし―
(結び)
僕らはきっと何度でも想い出す。
教室の片隅で始まった、ささやかで愛しいこの小さな物語を。

【episode.144】ヒロインと主人公
(扉絵)
誰だって、かならず、かならず、誰かの特別になれる。
(結び)
読切から4年間。応援とご愛読
本当に本当にありがとうございました。

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愛しき今夜(ぼくたちは勉強ができない・文乃SS)

※七夕🎋をテーマにした、台詞だけで構成した小話です。

「お母さんあのね! 宇宙には、ワイン500本のお酒がふきだす星があるんだって!」
「まぁ」
「その星に行ったら、お父さんもお母さんも毎日かんぱーいってできるね!」
「そうね、助かるわね」
「あとねあとね、10万度のお湯がふきだす星とか、小石が雨みたいに降ってくる星とか、あるんだって!」
「まぁ怖い。これだけたくさんのお星様があると、いろんな星があるのね。それで、お願い事は書けた文乃?」
「うん!」
「じゃあ、お母さんのと一緒に笹に吊るして頂戴ね」
「はーい!」


「きょうは晴れたから、ふたりも会えたかなぁ」
「そうね、きっと会えているわね。でないと淋しくて泣いちゃうわね」
「……お母さん?」
「文乃。宇宙ってとっても広いの」
「うん、知ってるよ?」
「地球を、文乃の好きな青いビー玉ぐらいだとするとね。図鑑に出てた海王星って青いお星様は、歩いて40分ぐらいかかったところにある、ピンポン玉みたいな大きさなの」
「ふーん……」
「ここから見ると、お星様は隣同士近くて、沢山集まってるように見えても、実際はぽつんとひとり、淋しいの。だから織姫様と彦星様は、毎日とっても会いたいと思うわ」
「うん」
「だからね文乃、星の綺麗な夜には、きっと見つけて頂戴ね」



「……だからね成幸くん、七夕が晴れると、わたし、すごく嬉しいんだ」
「きょうはお母さんの星も、きっと見てるよ。本当によく晴れたよな」
「織姫のベガと彦星のアルタイルの間は、本当は光の早さで15年の距離。だから毎年会うのは無理だけど、せめてお話の中だけでは、ね」
「そうだな」
「ふたりの間を流れる天の川も、銀河の星の濃い部分。その銀河が、宇宙には観測できるだけでも2000億個以上あるといわれていて、ひとつの銀河に1000億個の星があるすると全部で……」
「うわ、数えるのも嫌になっちゃうな」
「そうだね、だいぶ慣れたけど、計算してたら頭痛くなっちゃう。だけど、そんな星も元を辿ると、たった二つで出来てるんだよ」
「へぇ」
「水素とヘリウム。わたしたちも地球も、宇宙の星も、ぜんぶその二つのぶつかり合いで出来てるんだよ」
「凄いな。まるで、アダムとイブだな」
「ぶふっ!」
「文乃も俺が、もともとは同じものから出来てるんだなぁって思ったら、なんか嬉しいよ」
「も、もう成幸くん……すぐそういう事を平気で言う」
「あ、悪い! なんか俺、またおかしい事言った?」
「うれしいんだけど……とっても、恥ずかしいセリフだったから」
「あ……文乃の顔見てたら、なんか俺も恥ずかしくなってきた。ごめん」
「ううん。だから……そういうのは、ふたりだけのとき限定で、ね」