SSの本棚

書いたSSなどの置き場として使ってます。

お昼のお星さま(シスタープリンセス・衛誕生日SS)

 泳げちゃいそうな色の空の下。
 駅から続く、長くて真新しい、パステルカラーのブロックの敷き詰められた並木道。
 そこを、ボクはあにぃと二人で歩いてる。
 えへへへへ……手をつないで、ね!
 あにぃは今日、ボクをプラネタリウムに誘ってくれたんだよ!
「衛は、おもいっきり身体動かせるところの方が好きかもしれないけど」
 なんて、すごく申し訳なさそうに言ってたけど、ボクは飛び上がって喜んじゃったよ!
 だって、そういうところって、ボクが小さかったときにしか行ったことなかったし……すっごくデートっぽくて、ドキドキしたんだ!
 おかげで昨日は、ちょっと、寝つけなかったぐらい……
「うわっ」
 突然、隣のあにぃから声があがって、手がぐいって引っ張られた。
 あにぃったらさ、あんまり端っこ歩いてるから、ブロックが抜けてるところで足を取られちゃったみたい。
「あははっ、あにぃ、そんな端っこ歩いてるからだよ。どーどと真ん中歩けばいいのに。で、そのプラネタリウムってどこなの?」
「もうちょっとだよ」
 その先に待ってた幅の広い階段を一気に上りきると、歩道の終点には……体育館くらいの高さがある、全面ガラス張りの、船みたい建物が建ってたんだよ。
 わぁお♥️
「着いたぞ、ここだ」
 真新しくて面白い形の建物に興奮したボクは、後ろからにあにぃの声を聞くなり中に駆け込んじゃった、てへへっ。
 お~い、あ・に・ぃ。早く来てよ。 ここまで来て、プラネタリウムが始まっちゃったらもったいないじゃないか♥️

 入ってすぐの絨毯は海みたいな青い色。吹き抜けの上まで伸びるらせん階段は波の色みたいなで、なんだか、あにぃと、船の旅に来たみたいな気がしたよ……。
「すっごくきれいなとこだね!」
「あぁ、先月出来たばっかりだからな。他の階は、科学館なんだって」
 ボクはもうグラウンドに出たみたいにワクワクして、階段も一段飛ばしで駆け上がっちゃった。
 ちょっと急いでたのは、時間がわからなかったせいもあるけど……その、恥ずかしいけど……。
 ……トイレに、行きたかったんだよね。
 だって上映中に席立っちゃったら、恥ずかしいから。
 あにぃが追いつくのを待って、窓に近づいたら面白いつくり。外に向いた窓が、船の窓みたいにまんまるで、それに魚眼レンズがはめてあって……外の景色が歪んで遠くに見えるんだ!
 えへへ……船、それも潜水艦みたい♥️
 そしてボクとあにぃは、一緒に映画館みたいな厚い扉を二つ開けて中へ入ったよ。

「わぁ……♥️」
 中に入ったボクはまた感心して、ため息がでちゃった。
 建物の真ん中にあるから外からは見えなかったけれど、ドームは想像してたのよりすごく大きくて……スケート場とも、体育館とも違った丸い天井がすごく不思議に見えた。
 まだ開いたばかりだからか、お客さんはちっちゃな子供連れのお母さんが二組。それとボクたちみたいな……カップルが一組。
 って、いいよねあにぃ、ボクたちそう呼んでも♥️
「えへへ……ボクとあにぃだけの貸切ってわけには、いかなかったね」
 壁についた手のひらに、ざらっとした感触がした。
 あれ……なんだろ。
 首を横に向けると、壁には一面に小指の先っぽくらいの穴。
 よ~く目を凝らしてみると、このドームの壁みんな、そうやって穴があいてたんだ!
「ねぇあにぃ、どうしてこの壁って穴があいてるのかな?」
「防音のためですよ」
 突然した女の人の声で振り返ると、そこには、スーツを来たお姉さん。
 係員さん、かな?
プラネタリウムは、光が漏れないように中と外とをしっかり遮断してるんです。そして星空を映すために綺麗な円形をしてます。だからそのままだと声が反響しちゃうんですよ。それを防ぐためなんです」
「そういえば、音楽室でも同じような壁見たことありますね……」
「そうですね、うるさくしないようにするという理由では同じですね。お客様の内緒話がドーム全体に伝わっては、恥ずかしいでしょう?」
「へぇ……でも、こんなにでこぼこしてちゃ、星が消えちゃったり歪んだりしないのかな?」
「大丈夫です。星はこの穴に関係しないくらいすごく小さいですし、有名な星座を形作る星は、穴に消えないような軌道を描きますから。プラネタリウムって、思っているよりずっと精密な機械なんですよ」
 お姉さんはくすって笑った。でもどこか、緊張してるみたいにも見えたんだ。
「すみません、ついでなんですが、見るのに一番いい場所って、どこですか?
「そうですね。ここなら投影機の後ろの真ん中辺りがいいと思いますよ。北の空が見えにくくなりますけど、そんなに北の空を見てもらうことはありませんから」
 えへへ、あにぃったら、ちゃっかりしてる♥️
「すみません、ありがとうございます」
「ありがとうございました!」
「はい。わたくし、今日が初めての解説なので、至らない点もあると思いますが、どうぞ楽しんで行ってくださいね」
 お姉さんはボクたちの先を切って、ドームの端っこの教壇みたいなところに登っていった。やっぱり係員さんだったみたい。
 その後姿を、あにぃは少しの間じっと見送ってた。
「あにぃ、どうしたの?」
「いや、どこかで会った知り合いだったような……気がして」
「そうなの? だったら、お話してくれば良かったのに」
「でもなぁ、これ以上じっと見てると、後で衛に、他の女の人とばっか仲良くして、ってむーってされそうだしなぁ」
「そ、そそそそんなことしないよ!」
「衛の目はそう言ってなかったぞ」
 そう言ってあにぃはパチっとウインクして見せて♥️
 も、もうあにぃ……ひどいなぁ。
 でも、コレってオトナ扱いされてる……ってことなのかな?


 場内が暗くなってきて、青空と夕焼けの雲が映りだすと、真正面……南って光る字の上に、パノラマ写真の風景が浮かびだしてきて……その中には、いっぱい見覚えのある建物が移ってたよ。
「あにぃ、ほらあそこ! ボクの学校がある」
「……あ、ほんとだ」
「ボクたちの乗った駅も見えてるんじゃないかな?」
『これが、この付近で一番高い建物に登った時に見える景色です』
 あのお姉さんのアナウンスが入ると、ドームの中はだんだんオレンジ色から夜の色に変わってきて……浮かんでいた雲の画像も灰色の虹の中に、消えていったよ。
『日が沈んで、皆さんがいつも眺めている夜空が見えてきました。いま皆さんが見ている夜空が、今晩、夜8時の星空です』
 手のひらに何かがこつんと当たって、ボクはドームの壁から目を逸らした。
 青っぽく光って見えたのは、あにぃの手。
『……ネオンや照明のため、多くの星たちの瞬きが、消えてしまうのです』
 暗くなったからこそって伸ばしたんだろうけど……あにぃのえっち♥️
 ボクは、自分からその手を重ねて、ぎゅって握っちゃった。
 太腿のところに押し付けて……えへ、今日はあったかいな……あにぃの手。ボクも、顔がなんだか熱くなっちゃう……♥️
『それでは、今晩は特別に、皆様を空気の澄んだ、遠い山の中へお連れします』
 画面に映る町の景色が暗くなって、そして深い青と緑のラインが浮かび上がって……山の風景になった。
 いつのまにか、映っていた月も消されてて…そして、目の前で星の数が一気に増えていったんだ。
 それは今までキャンプ場やスキー場で見たどの星空よりも多くて……何かに飲み込まれちゃったみたいで……。
「衛、上見ろよ」
 ボクの太ももに乗せた手でとんとんとつつきながら……話し掛けてきたあにぃの小さな声で見あげると、そこには……

 夜の雲みたいにぼんやりと空を横切る、白い天の川があった……

 それから、秋の星座の……ペガスス座のお話が始まって、大きくアンドロメダ銀河の映像が写ったりして……。
 冬の星座なら、学校でも習ったからお話できたけれど……途中から、そんなことも考えられないくらいボク見とれちゃって……流星が流れたのは、本当にびっくりしたな! あのたった一個の機械でそんなこと出来るなんて、思わなかったから。
 最後は、空いっぱいに星座絵が並んで、そして、消えていった。
 山の風景も消されて、本当に満天の星空と静けさだけがしばらく続いて……夜が明けた。
 ……見たいな。
 キャンプ場じゃない本当の山の中で、アウトドアのキャンプをして、夜通しあにぃとこうやって星空が見れたら、すごくすごく楽しいんだろうなぁ……。
 あんな山の中だと、夏でも夜は息が白くなっちゃうんだよね……。
 白い息をはぁ~って吐いて、ホットコーヒーを注いだマグカップをにぎって、身を寄せ合って……
 ……ねぇあにぃ、ボクがもっと……今のあにぃと同い年になったら、やってみようよ!


 外に出ると時計はちょうどお昼。
 ドアをでたとたん、二人同時にいっぱい伸びをして、お腹が鳴っちゃって……顔を見合わせて笑っちゃった♥️
「あにぃ、ありがとね! すっごく面白かったよ」
「たまにはいいだろ? でも俺もちょっとカラダ、動かしたりない……かもな?」
 ボクたちが入ってきた方とは反対側の出口は、駅から伸びていたのと同じブロックの歩道が延びてて……その先は川。
 そして、歩道の端の木には、小さくてすごく香るお花がたっくさん咲いてたんだ!
「わあっ、なんだっけこの花?」
 キンモクセイだなって、あにぃはすぐに答えてくれたよ。
 やっぱり、あにぃはボクのあにぃ! 何でも知ってるんだね!
 目を閉じて、身体をうーんと逸らして深呼吸。
 空は、プラネタリウムに来た時と一緒の澄んだ青空。
 ボクの生まれた季節の秋の風、暑くもなくて、寒くもなくて、走り出したいような空気……やっぱりドキドキする、ボク、落ち着かなくなっちゃう……。
「たまにはこういうのもいいだろ? でも俺もちょっとカラダ、動かしたりないかもな。よしっ、河川敷まで、競争するか?」
 そんなボクの心、読まれちゃったのか、あにぃは珍しくそんな誘いをかけてくれたよ。
 もしかしたら、カラダでうずうずしてるってこと表現しちゃってたのかな、てへへっゥ でも、そうこなくっちゃ! 
 やっぱり、汗かくくらい運動するの、ボク大好きなんだからぁ!
「うんっ! よぉっし、ボク絶対に負けないからっ」
 えへへ、けどきっとあにぃ、マラソン大会以降全然走ってないんだろうなぁ。
 ボクはあにぃに負けないように、最近はダッシュの練習もしてるもんね。
 気軽に誘っちゃって、ちょっと後悔してるかもね、くすくすっ♥️
「伸脚、アキレス腱っと。もうこっちは準備いいぞ。衛は?」
「……うん、だいじょーぶ。いこっ、せーの」

 よ~い、どんっ!