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ボクの…「お兄ちゃん」?(シスタープリンセス・衛SS)

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※10月18日は衛の誕生日ですが、何も準備してませんでしたっ!(汗)
なので戒めもこめ、本当に昔に書いたSSを晒しますっ。Happy Birthday衛☆


お兄ちゃん、お兄ちゃま、お兄様、おにいたま。
兄上様、兄くん、にいさま、アニキ。
兄君さま、兄チャマ、兄や、そして、あにぃ!
これぜーんぶ、ボクたちのたった一人のあにぃについてる呼び方なんだ!
えへへへへ……こんなにいっぱいの呼び名がある人って、きっとすごく珍しいんじゃないかな♥
もしかしたら、世界であにぃだけかもしれないね!
でも、こんないっぱいの呼ばれかたで呼ばれたら、どんな気持ちになるんだろう?
ちょっと前までのボクはそんなこと考えもしなかったけど、でもね、最近ちょっとだけそれが分かっちゃったんだよ!


学校の帰り道、ボクが公園に寄ったら、足元にサッカーボールがぽんって飛んできたんだ。
慌ててトラップしてそっちのほうを見るとね……うれしいな、フットサルをやってたんだよ!
フットサルっていうのはサッカーをちっちゃくしたようなスポーツで、やってるのも小学生のチビッコたち!
すぐに中でやってた女の子がボールを取りに来て、コートからは「ちかれた~」って出てくる男の子がいて……あぁ、このくらいのときは、男の子も女の子も関係なくスポーツして遊べたんだよなぁってうらやましく思っちゃってサ♥
そしたらガマンできなくって……男の子の代わりにって、ボクも入れてもらっちゃったんだよ!
確かにボク球技はニガテなんだけど、チビッコたちが相手だったから、余裕よゆう!……シュートのとき玉乗りしちゃって、どったーんってひっくり返って膝コゾウすりむいちゃったりしたけどね、あはははは♥
ちょっとのつもりが、結局、ボールが見えなくなるまでプレイしちゃったんだ……すっかり気分はガキ大将だよ!


結構きれいなコートだったから泥だらけ、ってことにはならなかったけど、みんな汗だくではぁはぁ言ってったっけ。
そのうちチビッコたちが集まってひそひそ言い合って……そして一人の男の子がボクに聞いてきたんだ。
「ねーねー、おねえちゃん名前は?」
そっかぁ、ボク名前も言わないでまぜてまぜてって入っちゃったんだっけ♥えへへへへ……ちょっとそそっかしいな♥
もちろんすぐ名乗ったよ、後の子達にも聞こえるぐらい、おっきな声でね!
「ボク?ボクは、衛っていうんだ!」
そしたら、みんな目を丸くしちゃって……また輪になってほらやっぱりとか、言い争いになっちゃったんだ!
ボク、何か悪いこと言ったのかなぁ?
って悩んでたら、いつのまにかみんながボクのほうに向いて、すっごくうれしそうに、
「衛おにいちゃんっ、またこんどいっしょにやろうねっ!」
え、ええええぇっ!!
こんどはボクがもうビックリ、思わず飛び上がっちゃったよ!
ボクが話そうとするのを待たずにチビッコたちは「じゃーねーっ」てわっと駆け出して行っちゃったんだ!
どうやら、ボクが男の子か女の子でモメてたみたい……そして、さっきのでカン違いしちゃったみたいなんだ……あはははは……。


帰り道、ボクは本当に考えちゃったよ。
そりゃボクは、自分のことボクって言うし、汗だくになるまでスポーツやるけどさ、男の子に間違われるなんて……。
ふだんから男の子に生まれてきてればなぁ、なんて思ってたせいかな?う~ん、今度会ったらどう言おうかなぁ。
でも……あのチビッコたちのすっごくきらきらしてうれしそうな目を思い出したら、お兄ちゃんのままでいいかな、とも思ってきたんだ♥
なんかさ、頼りにされてるっていうか、お姉ちゃんよりずっと親しみを持ってくれてる気がするし、めいっぱい暴れても許してくれそうな気がするモン!
いっつも衛とか衛ちゃんとかばっかりだから……それはボクにとってすごく新鮮な体験だったんだ♥
そこで、ふと思ったんだ………あにぃはボクたちにいろいろ呼ばれて、いつもどんな気持ちになるんだろうって!
だから――帰ってからお部屋で実験してみたんだ。
もちろん『ねーねーちょっと、衛お兄ちゃんて呼んでくれる?』なんて頼めないから、自分で部屋でこそこそ、ね♥
「えと………まもる、おにいさま」
わぁお……♥
な、なんか、ぐっと自分がオトナになった気がするよ!ちょっとそっけなく「何だ?」なんて答えちゃったりして、サ。
そっかぁ、咲耶ちゃんに呼ばれると、あにぃはこんな気持ちなんだ………。
「まもる、おにいたま」
きゃーーーーーーーーーっ!
雛子ちゃんだと、あにぃはこんな気分なんだぁ♥
す、すっごく「ぎゅーっ」てしたくなっちゃうよ!そして、かわいいかわいいってなでてあげて♥アイスでもぬいぐるみでも、ぽんぽん買っちゃいそうだよ!
「……やぁ………まもる、あにくん……」
………あ、あははははははは………どうしてかわからないけど、何もしてないのにビクッてなっちゃうなぁ……♥
あにぃが千影ちゃん相手だと困っちゃうのはそういうことかぁ………。
こんな調子で、12人分全部やっちゃたんだよ!
一人で鏡に向かって呟いては大騒ぎして……くすっ、すっごくボクらしくなかったね!
他の人が見たら、なんかおかしいじゃない?って見られちゃったかも♥
あんまりキャーキャー言ってたから最後にはママが出て来て「衛ちゃん、どうしたの?」って言われて、ビックリしてイスから転がり落ちちゃった、えへへ♥
そっかー、呼び方だけで、こんなに気分が違うもんなんだー。
ボクたちが一人づつ違った呼び方をしているのも、ムダじゃないってことだね!
そうすると、また気になることが出てきたんだ――いったい、あにぃはどの呼ばれ方がいちばんスキなんだろう?


さすがにあにぃ本人には聞けないから、次の日ボクは、クラスの男子に聞いてみたんだ!ど~んな呼ばれ方されたい?ってね。
みんな、不思議そうな顔してたけどね♥えへへっ。
「オレは、お兄ちゃんだな」
「だよなー、普通そうだよな」
するとね、みんな口をそろえて「お兄ちゃん」だって言うんだ……ちょっと不満かなぁ。
だってその呼びかたをしてるのは、ボクじゃなくて可憐ちゃんなんだもん……。
「ねぇじゃあ、あにぃって呼び方はどう?」
だからボクは『あにぃ』の評判をなにげなーく聞いてみたんだ。そしたら、
「なんだよそれー。衛、おかしいって」
「オレだったら絶対イヤだなー」
「止めさせるね、オレなら」
がががががががががががががががあぁーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!
ショックでボクは床を突き抜けて、保健室に落ちていきそうだったよ!
あ、あにぃって、そんなに不評なのぉっ!
確かに聞いたことも考えたこともなかったけれど……そこまでひどく言われるなんて、思わなかったよぉ!
「ていうか、今日初めて聞いたよ、そんな呼び方」
がががががががががががががががあぁぁーーーーーーーーーーーーーーんっっ!!!
ボクは、あのムンクっていう絵みたいにすんごい顔になっちゃったよ!
足元は酔っ払ったみたいにふらふらしちゃうし、頭はガンガン、目の前はマックラ……あにぃってそんなに珍しいのかぁ……グスン。
そのあとお前、まさかそんな呼びかたしてるのか?って聞かれたけど、ボクはウソを言うしかなかったよ……。
これじゃもしかして……ボクは嫌われてて、あにぃが一番いいと思ってるのは、可憐ちゃん?
うわーんっ、そんなのってないよぉっ!!


早くショックから立ち直りたくて、ボクは、こんどは真理子ちゃんたちに聞いてみたんだ!
やっぱり、女の子の方がボクの気持ちを分かってくれそうだし。こんなときだけ女の子を使うのはずるいと思うけどね、てへへへへ。
だけれど……。
「私も、呼ぶんだったらお兄ちゃんかなぁ」
「年がすごく離れていたら、お兄様か、兄さんだけどね」
「すっごくカッコよかったら、お兄様っ!なんて言って甘えてみたいけどね、えへ♥」
……うっうっうっ……。
それを聞いてボクの頭の中は、みんなの言葉がびよんびよんしてたよ。ボクの『あにぃ』って言うのは、本当に本当に珍しい部類に入るみたいなんだ………。
「衛ちゃんは、普段なんて呼んでるの?」
「ぼ、ボクは……普通にお兄ちゃんだよ」
「え~、この前まで、『あにぃ』じゃなかったっけ?」
「あ、ほ、ほら変えたんだよ、あに、イヤお兄ちゃんもそっちがいいみたいだしね♥」
真理子ちゃんの鋭いツッコミを交わしながら、ボクはさらにウソを重ねた……グスン…ウソのつき通しばっかりで、ホントに辛かったよ。
もうその話題を打ち切るために、ボクは昨日のチビッコたちの話をしたんだ。
でも……今日はとことんツイてないのか、真理子ちゃん、
「じゃあ、衛くんは自分もおにぃちゃんって呼ばれたいんだ?」
……うわ~ん!ドロ沼って言うんだよねこういうのぉ。
もうボクはやけくそで、
「うんそうだよっ、今日からボクは衛おにぃちゃんだっ!」
て宣言なんかしたりして………はぁぁぁ……。


ボクがあんまり落ち込んでたから、帰りに真理子ちゃんたちが、お気に入りのクレープショップでクレープをおごってくれたけど気持ちは全然晴れなかった……。
チョコバナナクレープを片手に、アーケードを見渡しながらため息ばっかり。
『あにぃ』はダメ……。
今まで何年も、ずーっとそう呼んできたのに、ずーっとあにぃに嫌な思いさせてたなんて……。
でもいまさらどうすればいいんだろう、それも聞けばよかったな……。
そんなことを、ずっとずっと、悩み続けてさ。
だけどその時、暗いままのボクの目に、突然映って来た人影があったんだ。
「え……うそ……」
そう、あにぃだった。
あにぃが、アーケードの中をこっちに向かって歩いてきたんだ!
いつもは、会いたいあいたいあいたいって思うあにぃなのに、今日だけは、今日のボクだけは、会ってほしくないのに!
そんなボクの気持ちは全然通じてないのか、あにぃは軽い足取りで近づいてくる。
知らんぷりしてどっか行っちゃおうか……ボクは足を止めて、ぎゅっとこぶしを握って、考えた。怖いぐらいに、考えたんだ。
「衛か?」
でも、そう言われた瞬間、
「あ、あにぃ!」
考えなんか全部吹き飛んで、ボクはあにぃのほうに走り寄ってちゃったんだ。
「あにぃ、何でここに?」
そうボクに聞かれたあにぃは鼻の頭をかいて、
「この前、サッカーの特訓に付き合ってくれって言っただろ?いい機会だから、新しいスポーツシューズを買いに……な」
わぁお!さすが、ボクのあにぃだよっ!
な~んか、運動不足がバレそうな気がして、内緒にしときたかったんだけどな、ってぶつくさとあにぃは続けたけど、ううん、全然そんなことないよ!
ホントは慣れない靴でプレイしちゃ危ないんだけど、ボクの練習のために、準備してくれるなんて…うっれしいなぁ!
おとといのフットサルが思い浮かんで、思わずボクは両手でガッツポーズ!しちゃったよ♥
でもその瞬間、お昼の、心を寒くさせちゃう言葉が次々頭の中に聞こえてきたんだ。
そうだ、ボク!


「おにい……ちゃん」


そしたら、口から出てきたのは、中途半端な「お兄ちゃん」で……
あにぃは凄くびっくりした顔で…最初は、自分が呼ばれたのか?って疑ったような目さえしてたよ。
うわ~ん、やっぱり、ボクじゃ、おかしいのかな。
あにぃの顔を見れなくてボクは足元部分しか見えない自分の影を見つめて、聞いた…。
「あにぃは……やっぱりこう呼ばれたほうが……うれしい、かな?」

そしたらあにぃは……。
笑って、声をあげて笑って、
「前にも言ったじゃないか、どんなときも、そのままの衛でいいんだよって」
って、『もう一回』言ってくれたんだ!

……そうだったぁ………そうだったよね!
ボクは、ボクって呼んで、あにぃをあにぃって呼ぶ、このままでいいんだったよね!
やっぱりボク、物覚えがわるいみたいだね……てへへへへ♥
そしてあにぃは笑い声を止めて、笑顔で、
「でもたまには、変わったことするのもいいよな……」
そう言うが早いか、ボクの頬に顔を近づけて
ちゅ…。
何かやわらかいものが当たって……え、これって………ほっぺただけど……キスっ!?
ぶしゅーぶしゅーぶしゅーっ!
きゅ、救急車!じゃ、じゃなくてバンソウコウ!じゃなくてじゃなくて!
えっと、煙を吐いちゃって壊れたロボットに効くお薬は……じゃなくて!
「お、おい?ど、どうした!?」
どうした?って……あ、あにぃが悪いんだよ!変わったことって言ったって、その、こんな……
ぶしゅーっ!
「な…顔が真っ赤だぞ、大丈夫か!?」
ダ、ダメっ、言葉にしようとすると……夕焼けなのに心配されるくらい真っ赤っかになるみたい……。
お、おかしいよ。
あにぃとは、ずっとボクと一緒にサイクリングに行って、キャンプに行って、スノボをやってくれる……ボクと一緒にいつでもアウトドアへ出てくれる連れっててくれるから……それでスキだったはずなのに……これじゃ……ほんとに、ボク、女の子だよぉっ!
「もしかして、恥ずかしかった…のか?」
あ、当たり前だよ!
あにぃの声だって、さっきから全然耳に入って来ないんだモン!
心臓がぐぐぐってつかまれたようになって、だめだめだめっっ!て思ってるボクの頭の中はガンガンして、何か魔法にかけられたみたいに体全体がドキドキするんだ!
……そっか……ボク、分かったよ。
好きな人は、呼ばれたほうだけじゃなく……呼んだ方もドキドキさせちゃうんだね♥
「き、気にするなよ兄妹なんだし。ほら、行くぞ」
あにぃはそんなこと言ってさっさと歩き始めちゃった。
けどセリフはどもってたし、やっぱり照れてきたみたいで、見えにくかったけど頬が赤くなってたね?
それを見たら、な~んかボクも安心しちゃってサ、
「じゃあ、今度兄上様とか兄やって言ったら、もう一回してくれる?」
なーんて言ってみたりしてね♥
「ばーか」
今度はいつも通りほっぺたを――痛くないほうだけ――うりうりしてきてさ。
そのときはもう、いつものボクたちだったよ!


ブラもつけない、赤い色も使わない、そうやっていっつも女の子をイヤがるボクだけど、たまにはママやパパがいっつも言ってるように、女の子らしくするのもいいかなぁ、って思ったな♥
で、でも、たまにはだからね、た・ま・に・は!
女の子扱いして遊んでくれなくなったら、あにぃのこと「あんちゃん」とか「兄者」とか、恥ずかしい呼び方で、呼んじゃうぞ!


※過去の自作の一部修正・再掲