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あゆがまだ好きだからぼく勉で例えてみた(前編)

<趣旨>
私の大好きな「月宮あゆ」は、ゲーム「Kanon」のキャラクターです。
現代で彼女のことを説明するのに、さまざまな思いから「ぼくたちは勉強ができない」の「古橋文乃」にシナリオをなぞってもらうという方法を思いつきました。
初出まで遡ると約20年前の作品なので、ネタバレも何もないかと思いますが、まあ、以下そういう私的なお話です。
文乃「……たい焼きを買ったら全力ダッシュって、とっても不安なんだけど」
うるか「あたし、成幸のいとこ役!?」
(というわけで、劇として演じてもらいつつ、( )内で解説。原作そのままのセリフ引用は『』で標記します)


<出会い>
――雪が、降っていた。
記憶の中を真っ白な結晶が埋め尽くしていた 。

(主人公・相沢祐一は、高校2年生。親の海外転勤への同行を拒否したものの、一人暮らしの主張も却下された彼は、1月のはじめ、7年ぶりに、同い年のいとこと叔母が住む北の街にやってきました)

(最高気温が氷点下になることが普通な世界。子供のころは冬休みのたびに遊びに来ていた場所だけど、7年前を境に縁が遠くなってしまい、なぜか記憶もおぼろげです。再会した従妹と、お使いがてら、街を案内してもらうところから、彼女とのストーリーを始めます)

うるか「買い物してくるから、ちょっとだけ待っててね。勝手にどっか行かないでね」
成幸「寒すぎる……」

(見知らぬ商店街。当時はスマホが舞台道具になくて許された時代ですから、迷子にならぬよう、おとなしく待っているしかない主人公です。そこへ……)

??『そこの人っ!!』
成幸「え?」 
??『どいてっ! どいてっ!』

(さあ、彼女の登場です)

成幸「古橋!?」 文乃「うぺぇっ!?」
べちっ!
文乃『ひどいよぉ……避けてって言ったのに…』
成幸「いや、普通にびっくりして!」

(鼻を押さえて非難の声をあげる、 ダッフルコートにミトンの手袋、黒ブーツを身にまとい、頭には赤いカチューシャ、背中には羽のついたリュックを装備した小柄な少女。今回文乃に演じてもらう、月宮あゆの姿です)

文乃「って話はあとっ」 成幸「何だよ!?」 文乃「走って!」

(見ず知らずの彼女に、突然手を掴まれ、道もわからぬ商店街を引っ張りまわされる主人公)

成幸「なに? なに?」 文乃「わたし追われてるんだよっ。いっしょに隠れて!」

(間一髪。ファーストフード店で客を装い隠れたところで、彼女を追ってきたエプロンをしたおじさんの姿が見えます)

成幸「なんで緒方の親父さんがここにっ! しかもめちゃ怒ってる!?」
文乃「たぶん、たい焼き屋さんの役だからだと思うよっ」
成幸「……なんでたい焼き屋さんが、ってなんだよその茶色い袋」
文乃「たい焼きだよ」
成幸「……えっと、その袋を手に入れるまでの事情を話してもらおうか」
文乃「えっと、たい焼きをたくさん買って、お金を払おうと思ったら」
成幸「思ったら?」
文乃「財布に、お金が入ってなかったので」
成幸「で」
文乃「思わず、走って逃げちゃったんだよ……」
成幸「……えっと、警察にいこうか古橋」
文乃「待って成幸くん! これには複雑な事情があるんだよ!」
成幸「聞こうじゃないか」
文乃「長くなるよ。とっても複雑な話になるよ」
成幸「時間はたっぷりあるから、いくらでも聞く」
文乃「あのね……すごくお腹がすいてたんだよ……」
成幸「……」
文乃「……」
成幸「完全にお前が悪いんじゃないかっ!」
文乃「うぺぇっ!! じゃなかったうぐぅっ!! ごめんなさいっ!!」

(……縮めてますがほぼ脚色抜き、彼女は出会って数分でこの流れで「食い逃げ」を自白する前代未聞のヒロインです。そしてお夜食の件などもあり、この掛け合いができてしまうのが成幸と文乃っち……)

うるか「……成幸、どこいったんだろ」

(というわけで後日ちゃんとお金払うという言質をとり、散々苦労してうるかのもとに戻って叱られます。その翌日、今度は街を思い出すためひとりで散策していると……)

文乃「え!? また成幸くんなの?」

(また走ってくるんですね、紙袋抱えた彼女が)

成幸「いいか、冷静に、箸を持つ方に避けるんだ」 文乃「うんっ!」 成幸「っておいっ!?」
ドカ!
成幸「なんで、こっちに」
文乃「うぐぅ、左利き……」

(冗談みたいですが、本当に彼女も左利きです。そして懲りずに再逃走の幕が上がります)

成幸「またかっ? またなのかっ? 財布の中見ろよっ」
文乃「だってこれ劇だからっ」

(商店街からの逃走の末、到着したのは見知らぬ小道でした。主人公は帰り道を尋ねますが、彼女は首をひねるだけ)

成幸「(帰るもなにも、もうあの界隈にもう近付けないんじゃないか?)」
文乃「何か言った? もしかしてキミも、帰り道知らない?」
成幸「わかるわけないだろ、俺、引っ越しで7年ぶりにこの街に戻ってきたばかりなんだから」
文乃「7年ぶり……昨日からもしかして、と思ってたけど、キミ、唯我、成幸くん……?」
成幸「もしかして、古橋……か」

(目の前の少女の面影に、霞んでいた記憶が、そこだけ晴れていきます)

文乃「成幸くんっ!」

がばっ、さっ、どか!

文乃「か、感動の再会を避けるってどういうことだよ成幸くんっ!? 街路樹にキスしちゃったよっ!?」
成幸「いや、飛び掛かられたら避けろってカンペが!」
文乃「ちょっとカンペ役! ってりっちゃん!?」
理珠「(原作通りです)」

(ごめんね、 かわして衝突させなければいけない理由があるのです)

どさどさどさ……
美春「きゃ!」 真冬「驚愕! 美春、なぜこんなところに!?」

(この時、文乃、もといあゆがぶつかった木から大量の雪が落ち、別のヒロインに降りかかるのです。彼女については、機会があれば……)

成幸「……結局、成り行きで盗品のたい焼きを口にしてしまった……」
文乃「昨日もあげたからね、一匹も二匹も一緒だよ」

(そんなやり取りもありましたが、幼なじみと出会い、記憶の靄が晴れた嬉しさは勝って……)

文乃「また会おうね成幸くん」
成幸「そうだな」
文乃「約束だからね。そうだ! 昔みたいに指切りしようよっ」
成幸「そこまでしなくても……」

(どこか懐かしさを覚える、指切り。そして彼女と別れます)

(そして話の合間に、主人公は夢を見ます。回想編です)


<7 years ago>
(回想は、雪の中、今より幼い顔のいとこと商店街に行き、同じように待たされているところから始まります。今から7年前……小学生ぐらいのことだと、プレイヤーは察します。そして)

どん!
??「うぐ」
成幸「……えと」
??「えぐ、ひっく……」

(赤いカチューシャと白いリボンの差こそあれど、あの少女と同じ髪色と顔立ちの少女が、彼の背にぶつかって泣き出します)

成幸「(これ、周りには完全に俺が泣かしてるって思われるんじゃないか)」
??「うぐぅ…」
成幸「と、ともかく場所を変えよう。な?」

(何とか彼女の名前を聞き出し、彼女に落ち着くよう話す主人公。少ないおこずかいで、彼女からのリクエストを買ってきます)

成幸「ほらいっしょに食べようぜ、たい焼き」
文乃「……(はむ)」
成幸「うまいか?」
文乃『しょっぱい』
成幸『それは、涙の味だ』
文乃『…でも…おいしい』

(その優しさがうれしかった、と後に教えてくれる彼女は、少ない口数ながら、また一緒にたい焼きを食べたいと告げます)

文乃「約束、だからね。指切りしよ」
成幸「えっと、指切りははずかしいんだけど」
文乃「指切り……」
成幸「わかったよっ」

(主人公はその翌日も、約束通り彼女と会います。たい焼きを食べ終わり、一緒に商店街を散歩する主人公に、彼女はぽつり、昨日泣いていた理由を告げます)

文乃『…あのね…お母さんが、いなくなっちゃったんだ』
成幸「……」
文乃「わたしひとり置いて、いなくなっちゃったんだ」
成幸「……」
文乃『…それだけ……』

(彼女は、母親を亡くして悲しみに暮れているところ――文乃では明確に描写されることはありませんでしたが――を、主人公に出会ったのです)

(なお、零侍さんの存在もあり気になるところですが、Kanonの作中では、父親の描写は全く出てきません。この父性の欠如は、他のヒロインでも、いえ初期のKey作品に共通する部分でもあります)

(これまで語れば大変になるので閑話休題。彼女を元気づけたいと思い、彼は、また会おうと待ち合わせの「約束」を取り付けます)

成幸「もしよければ、だけどな」
文乃「うん。成幸くんといっしょにいると、楽しかった時のこと、思い出せるから……」

(では、現在に戻りましょう)


<現在の日常>
うるか「そもそも、なんで文乃っちの役は食い逃げに命を懸けてるの?」
文乃「うるかちゃんっ。わたし、探し物をしてるんだよっ」

(後日、街をうろうろしている理由を主人公に尋ねられ、彼女は探し物をしていると答えます)

成幸「学校から帰って着替えて捜索って、忙しいな」
文乃「わたしの学校は私服通学なんだよ」
成幸「なるほど、で、探し物ってどんなのなんだ、古橋?」
文乃「そ、それが、どんなのかもいつなくしたのかもわからなくて」
成幸「ハァ?」
文乃「それでも見たら絶対に思い出すもん!……ってことになってるの」
成幸「う、う~ん」

(それでも、7年前の記憶が曖昧な主人公は、自分の記憶も似たようなものだと思って、手伝うと申し出ます)

文乃「あ、クレープ屋さんのメニューが増えてる!」
成幸「真面目に探せ!」
文乃「あれ、昨日までここ、ケーキ屋さんじゃなかったはずのに」
成幸「勘違いなんじゃないか?(こりゃ難航しそうだなぁ……)」

(こんな調子で、捜索に付き合うのが日常です)

文乃『こういうのって相合い傘って言うのかな』
成幸「い、いまのご時世には、そんなこと言ったりしないんじゃないか」

(それでも、雪が舞う日の捜索はこんな風に、傘を差し掛けてあげたりしてね)


<過去の日常>
(では、過去の二人はどうだったのか。当時の方がもっといい関係でした。毎日駅のベンチで待ち合わせては、遊びに出かけていました)

成幸「もうすぐだからな。いい場所」
文乃『人けのない場所……?』
成幸「その言い回しは、ちょっと語弊が」

(ある日、彼はお気に入りの場所を彼女に教えます。それは、その街の小高い丘の中、一本の巨木がそびえたつ森の広場でした)

成幸「どうだ、俺の秘密の場所。この木だけは、街中から見えるんだぞ」

(彼女も気に入り、主人公に微笑みます。その笑顔に心惹かれたところで)

文乃「ちょっとだけ、後ろを向いてもらえるかな。スカートだから」
成幸「……何するんだ?」
文乃「いいよー、上向いても」
成幸「……お、おい! 危ないぞ!」

(見た目に反して運動神経の悪くない彼女は、主人公が怖がるほど高い巨木の枝に上って、さらに見通しが良くなった街を眺めます)

文乃「平気だよ! 気持ちいい風……」

(その光景に、やっと笑顔を見せてくれるようになった彼女)
(でも主人公は、冬休みで遊びに来ているだけの小学生。いずれは親と共に帰らなくてはいけません)

(少しでも彼女の笑顔が見たくて、主人公はあくる日……)

文乃「あ、こないだクレーンゲームで取れなかった人形!」
成幸「こんなの、俺がやれば楽勝だぞ(うるかにだいぶ金借りたけど、どう返そうかな……)」
文乃「ありがとう!」
成幸「ちなみにこれはな、ただの人形じゃないんだ。願いが叶う人形なんだぞ」
文乃「……えっと、うさんくささがすごいんだよ」
成幸「そんなことない、絶対に叶うんだぞ! でも叶う願いは最大3つまでで、数を増やすお願いは禁止。 あとお金のかかる願いはダメ。叶えるのは貧乏な俺だから」
文乃「……ふふ。うれしい。じゃあね。早速ひとつめ」

(いかにも子供らしい発想のプレゼントを受け取り、彼女は1つ目のお願いを伝えます)

文乃「わたしのこと忘れないで下さい」
成幸「……」
文乃『冬休みが終わって、自分の街に帰ってしまっても、時々でいいですから、わたしのことを思い出してください』
成幸「約束する。俺は文乃のことを忘れないし、絶対にこの街に帰ってくる。その時はまた、一緒にたい焼き食べような」

(一度はこんなことを言われてみたい人生だった、ですね。少し先までジャンプしますが、2つ目の願いはこちらです)

文乃「ふたつめのお願い。この場所を、ふたりだけの学校にして」
成幸「学校、に」
文乃「成幸くんと一緒に学校に行って、成幸くんと一緒にお勉強して、成幸くんと一緒に給食を食べて、成幸くんと一緒に掃除をして……そして、成幸くんと一緒に帰りたい」
成幸「……」
文乃「どう、かな?」
成幸「……いいぞ。今日からこの秘密の場所は、俺たちの『学校』だ! 宿題もテストもなし!」
文乃「給食にはね、いつもたい焼きが出るんだ!」
成幸「おいおいっ」

(幼いながらも、立派な恋を進めるふたり、一方7年後の世界では……)

文乃「な、なんでふたりで見に行くのがホラー映画なの? 台風の日の繰り返しだよっ!」
成幸「誘ったの、古橋の方だよな? 俺だって嫌だよ!」

(偶然二枚入手した映画のチケットで、待ち合わせて見に行った映画がホラーだったり……)

文乃「成幸くん大変だよっ! トーストがなぜか黒焦げだよっ!」
成幸「……古橋、なぜトーストをフライパンで焼く? 特技は料理って言ってなかったか?」
文乃「あのその、これ劇でござるから!」

(……会話だけはアレンジしてますが、特技は料理と宣言してたことと実際の結果、まったく誇張なしの原作通りだったり……)

成幸「そもそもなんで古橋が、この家で食事を作ってるんだ?」
うるか「あたしが誘ってお泊まりさせたからだよ。まあ……炊飯器なのにご飯を黒焦げにしたのは予想外だったけど」
成幸「インスタントみたいなのとか、置いてないのか?」
うるか「あたしの役の子は陸上部部長だし、アスリートってことで、そういうの置かないみたい」
成幸「まぁ古橋の役の子、小さい時にテレビ番組の『CM』を見てクッキーを作ろうとしたキャラみたいだし。」
うるか「この碁石みたいな小道具がそう?」
成幸「それはリアル古橋の差し入れなんだが……」
うるか「……」
成幸「……」
文乃「えっと、意味深なアイコンタクトはやめやがれ、なんだよ」

(こんな感じで、完全なコメディですねw)

(しかし√の後半では、うるかが話した通り、主人公のいとこの誘いを受け、彼女は主人公と同じ家に数日泊まることになります)

(では、長くなりましたので後編に続きます……