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あゆがまだ好きだからぼく勉で例えてみた(後編)

趣旨や、これまでのお話は前編をご覧ください。では続きです。

<恋、そして……>

(お母さんは旅行中、ということで、彼女は何日かこの家に一緒に泊まりました。主人公の叔母と従妹と、まるで本当の家族のようにご飯を作り、それを囲んだりして、それはそれは楽しく。しかし、彼女はある夜、主人公に「家に帰る」と口にします)

成幸「もう寝るのに、ずっとカチューシャしてるんだな」
文乃「これね。大切なものだから。成幸くんがくれたんだよ?」
成幸「そうだっけ……ところで帰ったら、誰か戻ってくるのか」
文乃「ううん、わたしひとり。わたしのお母さんは、二度と帰ってこないから」
成幸「――叔母さんは、たぶん嘘に気づいてるぞ」
文乃「うん。みんな、優しいんだよ……あれ?」
成幸「……古橋?」
文乃「おかしいな、わたし、どうして泣いて……」

(文乃はどうだったのかぜひ尋ねたいところですが、彼女・あゆにとって家族の団らんは、羨望であると同時に、かつての幸せだった日々とそれに連なる悲しい記憶との邂逅でした。そして彼女は家を離れるとき、送る主人公にこう問いかけます)

文乃「成幸くんは…目の前で大切な人を失ったこと……ある?」
成幸「……」
文乃「あるんだね」

(成幸くんにこのやり取りをさせると、ダブルミーニングになりますが……取り戻しつつある記憶とともにふたりの仲は恋愛として、急接近します。以降、こんなやり取りをするぐらいですから)

文乃「もし、わたしの初恋の相手が、成幸くんだったとしたら……そうしたら、成幸くんはどうする?」
成幸『すぐに取り消してもらう』
文乃「どうして?」
成幸『初恋は、実らないっていうからな…』
文乃「成幸くん……もしかしてすっごく恥ずかしいこと言ってる?」

理珠「(ギロ)」 うるか「(じわ)」 あすみ「(ジト)」 真冬「(ゴゴゴ)」 水希「(殺)」
(……あの、ヒロインズの皆さん、劇に割り込まないでいただけます?)

文乃「探し物、もしかしたら見つからない方がいいのかも」

(主人公と仲が深まった彼女は、ずっと探していたものの捜索について聞かれ「きっと幸せだと必要ない物なんだよ」と呟きます)

(少しだけ話の順序を入れ替え、夢の回想編を挟んで、その正体をお伝えします)


<タイムカプセル>
成幸「もうすっかり暗いな」
文乃「そうだね」
成幸「……そういえば、明日で、お別れだな」
文乃「……そうだね、成幸くん、『転校』だね」

(7年前の冬休みの終わり、主人公が地元に帰る前日。二人は『学校』で遊び、すっかり暗くなっていました。その帰り道、ふたりは口の大きな、少し変わった形の瓶を拾います)

文乃「成幸くんは、タイムカプセルって知ってるかな?」
成幸「瓶はいいとして、何を入れるんだ?」
文乃「これ。この天使さん」

(文乃が提案したのは、彼女が大事に持っていた「お願いの叶う天使の人形」でした)

成幸「まだお願いが残ってるだろ?」
文乃「わたしは、ふたつ叶えてもらったから十分だよ。残りのひとつは、未来の自分…もしかしたら他の誰かのために…送ってあげたいんだよ」
成幸「叶えるのは俺なんだけど……その人見つかるかな」

(ためらう主人公に、彼女はこう言って微笑みかけます)

文乃『大丈夫。きっと、見つかるよ。この人形を必要とするひとがいれば、かならず……』

(ふたりは協力して、その即席タイムカプセルを地中に隠します)

成幸「……明日も俺、帰る前にちょっとだけ会いたい」
文乃「じゃ、明日も待ち合わせは『学校』でね!」



<ひび割れる重奏曲>
成幸「そういえば、どんな学校なんだ古橋の私服通学の学校って」

(明くる日、主人公は、彼女の通う学校を案内してくれと提案します。お互いの放課後、昔のように駅のベンチで待ち合わせた二人は、彼女の学校に向かいます)

成幸「ぜい……ぜい、こんな、山の中なの古橋の学校って?」
文乃「……そうだよ」

(不安げな主人公、そして、彼女。その道はいとこから「この先にはなにもないはずだよ」と言われた、森の中でした)

成幸「……ここ?」

(行き着いた先は、プレイヤーは何度も回想で見ている場所。森の広場でした。しかし大きな違いがあります)

文乃「そんな……嘘」

(そこに大樹はなく、あるのは切り株だけ。そして)

文乃「わたし、きょうもここに来たはずなのに。そうだよ鞄!……ない、おかしいよなんで空っぽなの? 嘘だよ、わたし、ここにいちゃいけないの?」

(泣きながら、混乱した叫び声をあげて、彼女は駆け出します)


成幸「おい古橋っ!!」


(慌てて追いかけた主人公が、再び彼女の姿を認めたのは、陽も完全に落ちた世界。降りしきる雪の中、彼女は街路樹の根元の凍土を、素手で掘り起こしていました)

成幸「やめろよ! 明日道具持ってきて、ちゃんと探せよ!!」

(舞台は、雪のない背景が1カットもない極寒の街。凍った地面をやわらかい女の子の手で掘れば、血が滲みます。なのに彼女はその手を止めようとしません。そして、主人公を見上げた彼女の口から、まったく彼女らしくないシリアスな台詞が飛び出します)

文乃『…ダメ、だよ…。だって、夜は明けないかもしれないよ』
成幸「……ふるはし?」

(その言葉を残し、彼女は忽然と姿を消します)

(翌日、彼女を探そうとして彼は愕然とします。いつも偶然彼女が現れてくれるから、何かあれば、いつも約束して会っていたから、連絡先も、住まいも、何も彼女のことを知らなかったことに)

(言いしれようのない不安に駆られた主人公は、知り合いを集め、彼女が掘っていた付近を徹底的に掘り返します)

大森「なんかあったぞ、これじゃないか唯我!」

(捜索により、タイムカプセルに埋めたあの天使の人形は、ついに現実の世界に戻りました。同時に、7年の歳月が経ったことを、否応なく突きつけます)

うるか「でも羽は取れてるわ汚れるわ、これボロボロだね。あたし、直してあげるよ」

(その夜、主人公は最後の記憶に到達します。そして……それを忘れていた理由にも)



<7年前の『真実』>
成幸「(喜んでもらえるかな、プレゼント)」

(それは、地元の街に帰る日の出来事でした。数少ないお小遣いで買ったプレゼントを手に、主人公は『学校』へ向かいます)

文乃「成幸くん!」

(いつもの枝の上で、主人公を見下ろす彼女。その姿を認めて、お互い手を振り返します)

(その瞬間、木の枝を揺らすほどの強い風が吹きました)

文乃「あ!」



(その瞬間、ストップモーションのように、彼女は、木から、落ち。
 ――響いた鈍い音とともに、世界が、その色を変えます)



文乃「……あはは……おちちゃった、わたし。木登り、とくいだったのに」
成幸「喋るな! すぐ病院に連れてくから!」
文乃「さっきまではすごく痛かったけど……でもいまはね、いたくないよ……」
成幸「痛くないんだったら、絶対に大丈夫だ!」
文乃「…あれ…… 体が… 動かないよ…」
成幸「俺が、連れていってやるから! だから、動かなくたっていいから!」
文乃「…でも…動けないと…遊べないね…」
成幸「……っ」
文乃「… 成幸くん……また…わたしと遊んでくれる…?」

(なぜ、痛くないのか。明かされないまま、BGM『夢の跡』を背に、白い雪が、彼女の頭から流れる血で溶け落ちていきます)

成幸「もちろん! ほら、いつもの指切りだ!」
文乃『約束……だよ』
成幸「ああ、これで」
文乃「……」
成幸「ほら、お前もちゃんとしないと……」
文乃「……」
成幸「指切りに、ならない……だろ」

(7年前の失われていた記憶。それは、初恋の女の子が目の前で喪われていく、子供には受け止めきれない、あまりに辛すぎる思い出でした)

(彼の手から、プレゼントが零れ落ちます。その中身は、カチューシャ。雪と共に、紅く染まった白いリボン代わりに、7年後の彼女がいつも身に着けていた、赤いカチューシャ……)













成幸「……」

(目を覚ます主人公。いま、すべてが明らかになり、浮かぶのはこれまでの日々。渡せなかったはずのプレゼントをつけて、一緒に過ごした彼女は、ただの幻だった? それとも……)

うるか「……起きた、成幸? これ、直した。ほとんどゼロから作り直しになったけどさ」
成幸「ありがとう……ちょっと俺、出かけてくる」

(迷いを断ち切るように、彼はいとこが直してくれた天使の人形を手に、土曜の昼下がりから、外へ出ます)

文乃『やっぱり待ってた人が来てくれることが一番嬉しいよ。それだけで、今まで待ってて本当によかったって思えるもん』
成幸「……そうだな」

(いつか駅のベンチで待ち合わせた時、彼女が口にしていた言葉を思い出しながら、彼はふたりの『学校』――いまは、切り株だけになった森の広場で、ひたすら待ち続けます)



 真っ赤な空を見上げて、ただじっと待つ。
 たったふたりの生徒。
 その、もうひとりの姿を、俺は待っていた。
 夕焼けの赤が通り過ぎて、やがて夜が来る。
 風に揺れる木々のざわめきを遠くに聞きながら、
 時間の流れる音を近くに感じながら…。
 すでに、この世には存在しない人を、待ち続ける。
 これ以上、滑稽なことはなかった。



(以上、原作より――7年間待った彼女の気持ちを追体験しようというかのように、ひたすら待ち続けます)

(「待ち合わせは、学校」。7年越しの約束を、もう一度果たすために )



<『最後のお願い』>
(そこで、突然場面は、家に戻ります)

文乃「成幸くん!」
成幸「わ、な、なんで古橋が家に!?」
文乃「なんでって、成幸くん、わたしもこの家の一員じゃない!」
成幸「あ……そうだったな」
文乃「今日はね、これから、クッキーを作るんだよっ!」
成幸「あ、ああ……」
文乃「何その顔。きょうはうるかちゃんにちゃんと作り方習うから大丈夫だよ。できたら食べてね!」
成幸「うん、まあ、それなら……安心かな」
文乃「言質、とったからね!」

(会話は文乃と成幸にアレンジしてますが……この流れで、突然こんなやり取りがはじまる意味を、想像してください。そして声は遠ざかり……)






成幸「……だいぶ、時間経っちゃったな」





(冬の中で最も寒さの際立つ、1月の末の、日曜日。肌を切る寒さを際立たせるような、橙色の黄昏時。 主人公は、しばし辛すぎる現実から幸せな幻想の世界に逃れていました。現実へ還った彼は、天使の人形を抱え、ひとり呟きます)

成幸『…俺は、今でもお前のこと好きだぞ』
文乃「――わたしもだよ、成幸くん」

(背後からした声。それは、ずっと待ち望んでいた――決して還ってくるはずのない、大好きな彼女の声でした)

成幸「……遅いぞ」
文乃「今日は学校お休みだよ、日曜日だもん」
成幸「そう、だったな……そうだ、ほらこれ」
文乃「探し物……見つけてくれたんだね」
成幸「ああ、だからお別れの前に、せめて俺に、最後の願いを叶えさせてくれ」

(主人公は、彼女の探し物……お願いが一つだけ残った、あの天使の人形を渡します。一瞬彼女は考え込み、そして飛び切りの笑顔を浮かべて、向き直ります)

文乃『それでは、ボクの最後のお願いですっ』
成幸「(……古橋? どうして今になって一人称を……?)」

(もしかしたら皆さんも、そうとは知らず、どこかで見聞きしたことがあるかもしれませんね。それでは『最後のお願い』です)












 ……ボクのこと、忘れてください…
 ボクなんて、最初からいなかったんだって…
 そう… 思ってください…











成幸「本当に……それでいいのか」
文乃「……」
成幸「古橋のお願いは、本当に俺に忘れてもらうことなのか?」
文乃「うぐっ、わたしのことわすれ、だめっ、なりゆきくん、わたしこれいじょうはできないっ」
成幸「……!」
文乃「わたし、同じ場面なら、きっとおんなじことを言うと思う……だから、たとえ劇でも、それでも成幸くんに言うのは嫌なのっ、辛いのっ」
成幸「……」
文乃「ごめん、なさいっ……あの頃成幸くんに出会ってたら、お母さんの星に手を伸ばしたくて、木に登っていたら……わたしが、わたしがあゆちゃんになっていたかもしれないって、そう、思ったら……っ」

(……すごく失礼とは思いつつも、文乃のことを知った時、あゆとの共通点の多さに、驚きました。母親を亡くしたけど、今は元気いっぱい。食いしん坊だけど料理は下手、左利きで、変な口癖があって……)

(そして何より、文乃の口癖「言質、取ったからね」は、あゆの台詞「約束、だよ」と、置き換えてしまえるぐらい、意味が一致します)

(もちろん、どれだけ似ているところがあろうとも、月宮あゆ月宮あゆ、古橋文乃は古橋文乃、です。容姿も、賢さも、当然ストーリーもまるで違う。上記であげた共通点も、令和まであゆが好きな私だから見えた幻覚でしょう)

(でも、それでも……1つ目の願いで「わたしを忘れないで」と願ったうえで、この「最後のお願い」を、心から口にしそうなヒロインに「出会った」と思ってしまったんです。「最後まで笑ってる強さ」を、知っているヒロイン。うるかルートで自分の気持ちを閉じ込め笑顔で送り出した、あの笑顔を見て )

あゆ「――文乃さん、代わるね」
祐一「唯我だっけか。彼女のこと、見ててやれよ」


(――では、続きは本当のキャストとやりとりでどうぞ)


あゆ「だって…ボク… もうお願いなんてないもんっ」
あゆ「…本当は、もう二度と食べられないはずだった、たい焼き…いっぱい食べられたもん…」
あゆ「だから…」
あゆ「だか…ら…」
……。
あゆ「ボク、ホントは」
あゆ「もう1回…祐一君と、たい焼き食べたいよ…」
あゆ「もっと、祐一君と一緒にいたいよ…」
あゆ「こんなお願い…いじわる、かな?」
あゆ「ボク、いじわる、かな…」
……。
あゆ「…祐一君…」
あゆ「ボクの体、まだあったかいかな…」
祐一「当たり前だ」
あゆ「…よかった」

(お前は生きているんだから、温かくて当たり前だ。そんな願いをこめた次の瞬間、そこには初めから何もなかったかのように、彼女の姿は消えてしまいます。それでも主人公の祐一は、これだけは間違いなく言えると、断言します)


――最後に見たあゆは、笑顔だった、と。



<エピローグ>
(季節は巡り、エピローグの幕が上がります)

秋子「祐一さん、今朝のニュースで言っていたんですけど、知ってますか?」
祐一「なんですか?」
秋子「昔、この街に立っていた大きな木のこと。昔…その木に登って遊んでいた子供が落ちて…同じような事故が起きるといけないからって、切られたんですけど…」

(さも世間話のように会話をはじめる、彼の叔母・水瀬秋子さん)

秋子「その時に、木の上から落ちた女の子…7年間戻らなかった意識が、今朝戻ったって…」

(つい先日『35歳の少女』ってTVドラマがありましたね。そうです、彼女は、ギリギリでこの世からは失われていなかったのです)

秋子「その名前が、確か……」

(そう、私が好きなKanonは、おとぎ話なのです。この√では、7年間昏睡していたあゆが本当に望んだお願い……そう「ずっと一緒にいたい」を天使の人形が叶えた、そんな幸せなおとぎ話)


<結びにかえて>
あゆ「このあと本当は、ボクが祐一君と待ち合わせるシーンがあるんだけど、文乃さんには似合わないからカットするね」
祐一「なんだよ、あれをからかうのが面白いのに」
あゆ「床屋で髪をバッサリ切られたって面白くないよっ!」
祐一「まあ、さすがにアレをやってもらうわけにいかないからなぁ」

(小学生で時が止まった彼女が『美容院』を知らなかったがために、散髪に失敗した、つまり、眠っていた7年分の知識をこれから得ていく困難をチラ見せしつつ、でもきっと幸せになれるよと歩き出すのが、彼女・あゆのお話のラストです)

成幸「……大丈夫か、古橋」
文乃「うん……ごめん、まだ少しぼおっとしてる」

(なお、京都アニメーション様のアニメ版では、全ヒロインのラストをつなげたうえで、もっともっと印象的なラストになってます。機会を作って、ぜひご覧くださいね!)

「文乃さんお疲れさま。ボクのたい焼き、食べる?」
「……ありがとう……ん、ちょっとしょっぱい」
「それはね、涙の味だよ……なぁんてね」
「でも、おいしい」
「……ふふふ」
「……えへへ、ありがとう、あゆちゃん」

本来、絶対に出会うことはないふたりです。
けれど、もし会えたならなんかとっても仲良くなってくれそうで。
ぼくたちは勉強ができない』も、誰かの「思い出に還る物語」になってくれるように祈りつつ。

以上、長いツイートに、お付き合いありがとうございました。